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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

海女さんに教わった「環境」のとらえかた

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社会環境学専攻社会学講座
吉村 真衣 講師
本教員のプロフィール

環境学研究科を修了し、縁あって今年度から教員として着任しました。歴史的景観や海女漁などを対象に、ローカルな景観や生業が、社会・文化・自然の相互作用の目まぐるしい変化のなかでいかに存立・変容しているのかを社会学的に研究してきました。
院生時代の研究は、制度政策や人々の行為、記憶などに焦点をあて、歴史的景観や海女漁の存立にかかわる社会環境を読み解くものでした。現在では、人がおりなす社会環境だけでなく、人と自然環境との相互関係にも興味を引かれています。
そのきっかけが、海女さんとのコミュニケーションでした。当時は文化遺産や観光の影響に関心があり、海女さんにインタビュー調査をしていました。インタビューが着々と進む一方で、人によって語りの厚さに差があることに気づきました。そのこと自体が社会学的な分析対象になるとはいえ、なにか違和感を覚え、現在の理論枠組みでは不十分なのではないかという迷いがありました。
調査を超えたコミュニケーションができるようになったとき、海女さんが雄弁に語りはじめたのは海中での様々な経験でした。
「息の長さなど、身体の傾向によって潜り方を変えている」「アワビはちょっとした日差しや海流の変化で敵が来たことがわかるから、考えて近づかなければいけない」「規定のサイズに満たないアワビは『また来年ね』と声をかけて海に返す」「海中ではアワビを狙う他の魚を腕で押しのけて戦っている」
彼女たちの自然環境とのかかわり方は想像を超えるものでした。また彼女たちは当初、わたしが潜ったことがあるかどうか、言い換えれば「陸(オカ)」の人間か「海」の人間かで態度を変える様子もありました。これまで陸の社会関係にしか目配りしてこなかった自分は、そのときハッと目が覚める感覚に襲われたのでした。
海女さんたちから聞くのは楽しい話ばかりではありません。近年の磯焼けの影響により根付資源が激減し、経済収入の面で大きな課題が生じています。これらの調査経験は、人と「環境」について考え直す契機になりました。人びとの暮らしに寄り添いながら、自然環境を含む「社会」の変動をとらえ、どのような将来を構想できるのかを社会学の立場から考えていきたいと思っています。
(よしむら まい)

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