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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生ががそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

研究が環境を作る

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都市環境学専攻 建築学系
荒木 慶一 教授
本教員のプロフィール

これまで,地震に強く環境に優しい構造物の実現に向け,様々な課題に取り組んできた。その中から,この数年で大きな進展があった研究とその背景を紹介したい。
博士課程・ポスドク・助手時代は,構造物がどのように壊れるかをシミュレーションや理論的考察により明らかにする研究に取り組んだ。自らプログラムを組み計算をする日々は楽しかったものの,成果を論文にすると次に何をするかを考えることの繰り返しで,何か物足りなさを感じていた。その後,助教授として京都府舞鶴市の歴史的煉瓦造建物の耐震補強プロジェクトに携わり,実験的に補強効果を確認する機会を得た。その中で,構造物の耐震性を本当に高めることの難しさと重要性を実感した。
筆者が専門とする構造力学では,力の釣合式,変形の適合条件式,材料の構成式を基礎とする。釣合式と適合条件式は精緻な計算を行えば,どんなに複雑な問題でも理論的(少なくても計算機を使って数値的に)に解くことができる。しかし,材料の力と変形の関係を表す構成式は実験から回帰的に得られる関係式で理論に乗りにくい。どのように建物が壊れるかを予測する際,この点がネックになる。一方で見方を変えると,構成則を制御できれば構造物全体の応答も制御できる可能性がある。
これまで耐震設計は,構造物の強度を高めることで応答を微小かつ線形の範囲に収める設計からはじまり,靭性の高い鋼材を用いることで比較的大きな非線形応答を許容し,建築計画の自由度や経済性を高める設計へと変遷してきた。しかし,変形が大きくなると鋼材は荷重を除いても変形が残る「塑性」と呼ばれる特性を持つため,応答を制御するのが難しくなる。そこで,荷重と変形の関係は非線形になるものの,荷重を除いても変形が残らない「非線形弾性」と呼ばれる特性を利用することで構造物の応答を制御し耐震性を高める設計への関心が,近年,国内外で高まっている。
このような状況で筆者は,ここ10年ほど,理想的な非線形弾性の材料特性と現実的な経済性を併せ持つ新しい形状記憶合金の開発と,建築・土木構造物への適用に関する研究を行ってきた。研究開始当時は数十年後に実用化の目鼻をつけられたら良いと考え,建築・土木構造に適用できるとは到底思えないようなミクロン単位の極細径の形状記憶合金ワイヤーの引張試験から基礎研究を始めた。しかし,ここ数年で研究が格段に進展し,径が数十mmの棒材で良好な特性を実現するのに成功した(Science 2013,Nature Communications 2017)。さらに,建築・土木構造物への適用に関して進めている実用化研究も,国内外で本格化してきた。現在の状況は,筆者はもちろんのこと,共同研究相手の東北大の材料科学分野の研究者や,材料メーカーの技術者も,ほんの数年前まで全く予想できなかったことである。
「人が環境を作るか,環境が人を作るか?」というのは古くからの問いである。これまでの研究を振り返ってみると,「研究が環境を作る」,さらに一歩進めて,「研究こそが環境を作り変えていける」というのが,筆者が最近抱いている実感である。
(あらき よしかず)

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