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このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

「進歩」を可能にするグローバル・ガバナンスの在り方を考える国際政治学

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社会環境学専攻 環境法政論講座
山田 高敬 教授
  (国際政治学、グローバル・ガバナンス論)
本教員のプロフィール

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人類の「進歩」とは何でしょうか。国際社会は戦後、GATT、IMF、世界銀行といった国際機関を創設し、貿易障壁の撤廃、国際収支の安定、途上国に対する開発支援などを通じて世界経済の発展に寄与してきました。確かにその結果、排他的な通商・金融政策は退き、世界経済は急成長し、特に先進国では富が蓄積しました。しかしその一方でグローバル・サウスでは貧困問題、人権問題および環境問題が顕在化する結果となりました。このような現況は、はたして「進歩」と言えるのかという疑問を誰しもが持つのではないでしょうか。「進歩」とは、これらの負の結果をグローバルなプロセスにフィードバックさせることで人類自身が軌道を修正することなのではないでしょうか。このような視点からすれば、私にとっての「環境学」とは、経済のグローバル化がもたらす環境・社会への負荷に配慮した国際的な制度の在り方を考える学問と言えるのかもしれません。
私は、このような視座から、これまで気候変動レジームの形成、世銀による社会・環境配慮の「主流化」、そして水資源問題に関する国連グローバル・コンパクト(UNGC)の取り組みなどについて研究してきました。気候変動に関しては、政策と科学のインタフェースとして重要な役割を持つIPCCの各国の気候変動政策への影響を、世銀の「持続可能な開発」への対応に関しては、世銀とトランスナショナルなNGOのネットワークとの「共鳴」過程を、そして水資源問題に関しては、UNGCによる規範形成とその「社会化(socialization)」プロセスを、それぞれ観察してきました。とりわけ水資源問題に関しては、興味深い発見がありました。それは、企業がウォーター・フットプリント分析の公開といった企業が本来取り組むべきこと以外にも、水利権の設定や水道料金の適正化といったガバナンスに関わる事項についても企業が水先案内人的な責任を負うべきという認識が共有されつつあるという事実です。私は、このような企業を媒介とする新しいグローバル・ガバナンスの手法が他の環境領域においても政府による規制の「底辺への競争」を是正する有効な手だてになりうるものと注目しています。
(やまだ たかひろ)

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