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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

令和6年能登半島地震におもう

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災害対策室(都市環境学専攻・協力教員)
護 雅史 教授
本教員のプロフィール

今年(令和6年)1月1日に、能登半島地震が発生しました。この地震でお亡くなりになった方々に哀悼の意を表すとともに、ご遺族、並びに被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。また、一日も早い復旧・復興を心よりお祈り申し上げます。
私は、名古屋大学工学研究科建築学専攻を修了後、大手ゼネコンに入社し、およそ15年間、主に研究関連部署で勤務しておりました。在職中には、「地震動予測地図」を公表している文部科学省地震調査研究推進本部への出向も経験しました。建築物の耐震工学、地震工学を主な専門分野としています。現在は、研究教育を行いつつ、災害対策室長として、名古屋大学や岐阜大学の学内防災対策の推進を主な仕事として活動しています。
令和6年能登半島地震においては、地震の規模を表すマグニチュードはM7.6で、活断層で発生した地震としては、29年前の阪神淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震のM7.2を上回り、日本における地震工学研究の契機となった1981年濃尾地震のM8.1に次ぐ規模でした。まだまだ被災の全体像が見えていない状況ですが、様々な課題がまた浮き彫りになりつつあります。建物被害に関しては、木造被害の大きい地域では、木造家屋被害を大きくする地震動が観測されていることに加え、テレビや写真等の間接的情報から判断する中では、比較的古い木造家屋に被害が目立っているように見えました。珠洲市でも震度6強が観測され、木造家屋を中心に多くの建物が被災しているようですが、平成28年度の珠洲市における住宅耐震化率は51%と低く、建物耐震化の重要性を改めて考させられる機会となりました。
また、路面崩壊や土砂災害、液状化等による道路閉鎖は多くの孤立集落を生み出しました。加えて、高齢化が進む地域における劣悪な避難所環境、長引く断水、救援物資の遅延等が多くの災害関連死を生じさせる可能性もあります。日本の現耐震基準では、震度6弱程度を越えるような大地震に対しては命が守られること、すなわち、その後住めなくなるような建物被害が生じても命が奪われるような潰れ方をしなければよいということになっています。しかし、今回のような道路被害や相次ぐ余震等により救助や救援物資が届かないことや、長引く断水、停電、避難所環境の未整備等による災害関連死は、耐震基準法でいう「命は守られた」ことにしていいのでしょうか。もちろん現耐震基準の建物の被害状況を確認する必要はありますし、最低限の性能として規定せざるを得ない基準とはいえ、「現在の耐震基準は低すぎるのではないか、改めて考えよ」と2016年熊本地震やこの地震から問いかけられている気がしています。もちろん建築だけの問題ではなく、まさに環境学研究をはじめ、あらゆる分野で考えていくべき課題であることは言うまでもありません。
(もり まさふみ)

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