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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

ヨットのようなアホウドリ、飛ぶのが苦手な巨大翼竜

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地球環境科学専攻 生態学講座
後藤 佑介 准教授
本教員のプロフィール

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古今のソアリング生物と地上の生物(イラスト: きのしたちひろ)
地球環境科学専攻 生態学講座の後藤佑介と申します。私は動物の行動データと数理モデリングを組み合わせ、動物の移動における意思決定を解明する研究を行っています。特に鳥の風に対する移動戦略に焦点を当てています。近年、野生動物に行動記録計を装着し、広範囲にわたる長時間の移動データを収集可能になりました。これらのデータは単なる数字の羅列に見えますが、詳細な分析を通じて動物の移動ルールが明らかになることがあります。
例えば、阿南極の離島で繁殖するワタリアホウドリは、数千キロメートルを数日かけて移動し、雛のための餌を集めます。餌を取り終え、雛の待つ巣へ数100 km離れた地点から帰る親鳥の経路を調べると、数10 kmのスケールで大きくジグザグした迂回路をとる個体が時折いることに気づきました。アホウドリは風のエネルギーを使ってほとんど羽ばたかずに飛び続けるダイナミックソアリングという特殊な飛行方法を使います。そこでジグザグの発生の原因は風にあると考えデータ解析を行いました。その結果ジグザグは目的地である巣のある島が風下か風上に位置するときに発生しやすく、これはヨットレーサーがゴールへ早く辿り着くために採用している移動戦略と似ていることがわかりました。
また、ソアリング飛行をする鳥類の行動を調べているうちに翼竜のソアリング能力も気になり、力学モデルを使って現生鳥類と絶滅鳥類や翼竜のソアリング能力を比較する研究も行いました。コンドルやグライダーは、上昇気流を利用したサーマルソアリングと呼ばれる方法で飛びます。翼の長さが10 mに近い史上最大級の翼竜ケツァルコアトルスは、この飛行方法によって1万km以上の距離を一度も着陸せずに飛べたと一説には言われてきましたが、本種がソアリング飛行に必要な上昇気流の強さは明らかにされてきませんでした。私たちの研究の結果、この巨大翼竜がサーマルソアリングをするには現生鳥類やグライダーよりもはるかに強い上昇気流を必要とし、サーマルソアリング能力が低かったと推定されました。そのため、従来言われてきたソアリング飛行による本種の長距離飛行は難しかったと考えられます。
自己紹介を兼ねて、これまで行った研究を簡単に紹介させていただきました。今後も環境が動物移動に与える影響を、行動データと数理モデリングを組み合わせて探っていきたいと考えています。
(ごとう ゆうすけ)

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