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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

住まい選びにみる都市の暮らし

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社会環境学専攻 地理学講座 2021年度博士後期課程修了
石川 慶一郎

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東京大都市圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)の都心(東京都区部)では1990年代後半以降人口増加が続いています。地方や郊外の若者が都心にやってきて、その後従来のように結婚・出産を機に郊外に転出することはせずに、未婚のまま都心に滞留しているのです。未婚者の住まい選びに着目すると、彼らの暮らしや、それに対する社会環境の影響が見えてきます。
未婚者は、家族形成者のように配偶者や子の事情を考慮しなくてよく、自由に住まいを選ぶことができます。一方で、労働者としての未婚者は自らの労働力を自らの手で回復させねばなりません。衣食住を揃え、自分をケアしなければならないということです。未婚者が重視するのは職場までの時間的・物理的距離の短さです。職場のある都心に住めば通勤時間を短縮でき、その分仕事や家事、余暇活動に充てられる時間が増加します。また、都心には商業施設や飲み屋街が集積しており、それらに容易にアクセスできることも都心居住のメリットです。
都心の未婚者の多くは賃貸住宅に住んでいますが、中には分譲マンションを購入する人もいます。分譲マンションは賃貸住宅よりも広く、多彩な間取りプランから自分好みのものを選ぶことができます。都心の賃貸住宅に住む未婚者が2~3年で転居を繰り返すのに対し、都心の分譲マンションに住む未婚者には永住予定の人が少なくありません。たとえ結婚などで自分のマンションを離れることになっても、資産価値の高い都心のマンションであれば、売却したり賃貸したりすることができます。
東京都心の家賃は高い。低所得者層の未婚者は工夫して都心居住を叶えています。たとえばシェアハウス。風呂やトイレなどの設備を共用することで、家賃支出を抑えたまま都心の便利な場所に住むことができます。シェアハウスと聞くと出会いを求める人が住むイメージがあるかもしれませんが、実際には経済的理由で選ばれる傾向があります。ほかにも、東京都心では10㎡程度の新築の狭小アパートや築古の風呂無しアパートに住む若者が注目を集めています。彼らは住宅の面積や築年、設備を犠牲にして、家賃支出を抑えたまま都心居住を実現している層とみなせます。
(いしかわ けいいちろう)

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