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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

先鋭化された先に柔らかな手を持つ

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持続的共発展教育研究センター
(立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部 教授)
山下 博美 客員教授

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小さな港町の理容店で育った私にとって、70~80年代の沿岸開発の波は目を見張るものでした。土地が広がる便利さはもちろんありながらも、海の環境悪化も急激に起こり、カニ採りや潮干狩り、磯遊びの文化が消えました。祖母やお客さん達の「昔の海はよかった」という言葉に、強い憧れを感じ、又、環境が大きく改変される工事について、一番海に近い漁師さんや渡船さん、ご近所さんが「知らなかった」と驚く状況が、小学生としても不思議でなりませんでした。
現在は、環境社会学の観点から、沿岸開発や自然再生事業における住民参画、より納得感が広がる官民協働の協議手法について、東北、四国、九州、イギリス、マレーシアで研究しています。
2010年にイギリスから11年ぶりに帰国する際、勤務先が名古屋大学大学院環境学研究科であったことは、私にとって生涯の財産です。理学、工学、人文社会科学の、これほど多様な学問分野が「環境学」で繋がり、日々絶え間なく交流している大学院が、世界中どこにあるでしょうか。
特に赴任直後、今は「持続的共発展教育研究センター」と呼ばれるグループ所属の教員お一人おひとりの研究内容を、伺いに回った時のことは忘れられません。分かり合えないと思い込んでいた工学や、関係ないと思っていた惑星学などの視点が、自分に欠けていた思考を補完する重要な役割を果たすと知りました。各分野の原動力が繋がってこそ、社会変革を起こせる研究となること、学問が全て地下水脈で繋がっていることを、日々、会話の中で体感でき、インスピレーションが湧いてくる環境が、本研究科にはあります。今、自身が代表となる研究チームに、海岸工学、建築学、都市計画、コンクリート工学、生態学、法学者がいることも、この経験のおかげです。
2013年に九州へ異動した後も引き続き、博士後期課程の学生が履修できる「臨床環境学研修」の授業に関わらせて頂いています。ここでも多分野の学生と教員が熟議します。博士研究では、自身の専門分野を先鋭化させることが重要ですが、同時に、その先端には、他分野と繋がる柔らかな手を持ち、その面白さを体感してほしいと思っています。未知の考えに触れ、頭を抱える経験から、今後も多くのブレークスルーが学生・教員問わず生まれることを期待しています。
(やました ひろみ)

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