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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

「大きな問い」への道筋、環境学

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都市環境学専攻 2002年度博士前期課程修了<研究科第一期生>
株式会社 良品計画 ソーシャルグッド事業部 事業推進担当部長
高須賀 大索

『人は環境に影響し、環境は人に影響するという相互作用のサイクル』
(都市生活の心理学,Edward Krupat,1994)
高校時代に広島県立図書館で偶然出会ったこの言葉に、「生きるということ」と「まち」に関わる「大きな問い」のようなものを感じた。広く学び、その道筋を考えたいと思ったとき、名古屋大学に入れば1年間は建築学と社会資本工学を区分け無く学べる社会環境工学科(現:環境土木・建築学科)があることを知った。
入学して、建築の先生からは、まちの文脈や場を考える上で、歴史や生活文化、芸術も含め文系・理系関係なく理解する必要があることを教わった。社会資本工学では、林良嗣先生(現:中部大学)から、都市の在り方と人の暮らし方、経済活動が一体であることを学び、「大きな問い」は徐々に自分の言葉になっていった。「もっと人が生きていて良かったと思えるまちや場はどうやったら創り出せるのだろう」「ウィーン世紀末のまちはどんなだったのだろう」と日々考えていた。
人が人間的に暮らせる場、誰でも地域ごとの風土風習に触れられる場として、商店街を再生したいと考える一方で、モータリゼーションと2000年大店立地法施行(学部4年時)は、団塊ジュニア世代の「家族世帯」化に呼応した大規模商業開発が全国に波及することを示していた。そこで、地方都市の魅力向上のための立地・交通施策について卒論研究で取り組んだ。指導教員の加藤博和先生は日々現場で語りかけてくださり、
『大規模商業開発を止められないのなら、地域のために活かすという手はないか?』
という一言に、私は新たな視座を得た。
博士前期課程進学時に環境学研究科が発足し、第一期生として文理融合のフィールドで研究に取り組むこととなった。調査対象とした「生活バスよっかいち」は、住民、商業・医療福祉施設、行政が一体となって廃止バス路線を新たな形で復活させた先駆的事例で、修士2年の2002年11月に運行開始し、今年11月で20周年を迎えた。まちの様々な機能を地域主体の公共交通が繋げてくらしを支えるという生態系のようなコンセプトの実現。その最大のスポンサーは地域の大規模商業施設である。取組の裏には、「地域の役に立つ」ことを実践する人の存在があった。その人が描く「地域」という概念こそ「環境」そのものなのだと気づかされた。
大学院修了後、「地域の役に立つ」開発を問い続けるべく、商業ディベロッパーに入社した。吹田良平氏や中野稔氏、ビクターグルーエンの人生に影響を受けながら、地域ごとのコンセプトを企画・業態開発し12モールを手掛けた。企画部門責任者を経て、2019年からの3年間、”働く”と”暮らす”を融合する複合開発の構想・実現に現場で携わるなか、好きな場所に住まい働ける時代、個人が発信できる時代における「地域の芯」とは何かを問い続けた。そして、集積拠点で機能が繋がるだけでなく、「地域の役に立つ」しごとや産業、学びやくらしが相互に作用し合い、人の生きがいや志、成長とともに拡がろうとする生態系そのものだと結論づけた。
こうして次の環境への問いの出発点に立ち、その道筋に向けて2022年春より移籍し、次代に向けた商店街再生や道の駅、地域再生に全国津々浦々で取り組みはじめたところである。
(たかすが だいさく)

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