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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

ラストワンマイルのための建築

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都市環境学専攻 建築学系
堀田 典裕 准教授
本教員のプロフィール

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図1 展覧会 ‘A-LOM:Architecture for Last One Mile’ の様子、筆者が指導する大学院演習科目「建築デザイン実習」の成果を発展させたものです
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図2 展覧会の内容は拙著『〈モータウン〉のデザイン』で検討した自動車とともにある環境デザインの可能性を問うものです
コロナ禍によって、ヒトはかつてない物流の恩恵に預かることになりました。ヒトはモノを手に入れる時、街に「買物に行く」のではなく、家で「届物を待つ」ということにすっかり慣れてしまいました。必要に応じた購買行為であった「買物」は、第二次世界大戦後に「ショッピングすなわち「買い回る(米語 shop around)」という娯楽性を伴う購買行為となり、今や「届物」と呼ぶべき行為となったのかもしれません。
こうしたコロナ禍における「届物」の発達を予見していたかのように、「物流」に関わる業務は、この10年間で急速な自動化を遂げました。自動運転技術の発達を見込んで、空港・港湾・高速道路インターチェンジなどの物流拠点に建てられる運送会社の「地域間集配施設」は、様々なモノが所定の位置に速やかに移動する自動化された「モノのための巨大な機械」となっています。他方、物流の最終拠点と利用者の区間は、「ラストワンマイル(Last One Mile)」と呼ばれ、そのための小規模な「地区内集配施設」は、駐車場が広がる敷地に鉄骨造の作業倉庫が建てられただけの施設です。そこでは、優先的に確保される平面駐車場がつくる小さな建蔽率と容積率が、ビルトアップされた都市部に局所的なロードサイドの風景を持ち込み、クルマとヒトとモノが渾然一体となっています。
昨年9月、我々の研究室では‘A-LOM:Architecture for Last One Mile’と題する展覧会を学内のギャラリー「clas」で開催しました(図1)。その内容は、名古屋市内の用途地域の異なる運送会社の「地区内集配施設」を6カ所取り上げて、物流モビリティを中心とするまちづくり拠点施設の建築デザインを提案するものでした。ヒトとモノのコミュニケーションが必要とされる「物流」のための小さな場所が、周辺環境に応じたプログラムを、自動車交通のための立体的な場所として展開させることで、都市空間に散在する新しい公共空間のアーキペラゴとなるという我々の「コロナ禍の届物」を、無事に皆さんに届けることが出来れば幸いです(図2)。
(ほった よしひろ)

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