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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

鳥の目でみる山崩れと植生の回復

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社会環境学専攻 地理学講座
齋藤 仁 准教授
本教員のプロフィール

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鳥の目で見た阿蘇山の山崩れ
近年、ドローン(無人航空機)が様々な分野で活用されています。ドローンは、鳥の視点になって、地域の自然環境を見渡せます。ドローンを用いると、人工衛星画像や有人航空機よりも鮮明に、また地上の視点からは困難な、地表を俯瞰する写真や映像を撮影できます。地理学の分野においても、ドローンを活用して地形や植生を高精細・高頻度に分析し、防災や環境保全に応用する研究が多数行われています。
日本では、豪雨や地震等に伴い、毎年多数の山崩れ(土砂災害)が発生してきました。どのような条件で、どの山が崩れるのかを分析、予測することは重要な課題です。これまで多数の研究が行われてきましたが、特に小規模な山崩れは観測技術の限界からも、見逃されたり、過小評価されたりしてきました。
私たちの研究グループは、九州・阿蘇山を対象に、ドローンを用いて過去10年間継続して山崩れの研究を進めています。阿蘇山では、近年頻繁に山崩れが発生しました(例えば、1990年豪雨、2001年豪雨、2012年豪雨、2016年熊本地震)。また、阿蘇山には日本最大級の草原が広がります。その草地斜面でも山崩れが多発し、牛の放牧や牧草採取が困難となった場所もありました。山崩れとその草原への影響、そして近い将来発生するであろう次の山崩れに備えるために、多数の山崩れを俯瞰し、高精細で高頻度な観測と分析が必要でした。そこで、ドローンから得られる高精細なデータを用いて、山崩れの地形分析と植生(草地)回復の研究を始めました。これまでの研究で、豪雨と地震に伴う山崩れの地形的特徴の違いや、これまで見逃されてきた小規模な山崩れが土砂流出量に大きな影響を与えた結果が明らかになりました。また山崩れ跡地では10年ほどで草地が回復し、その回復には地形条件が影響している結果が明らかになってきました。
これらの一連の結果は、専門の異なる研究者や地域住民の方と協働し、地道な観測の継続により明らかにできました。最新の技術を取り入れつつ、地域の自然環境を俯瞰するデータを取り続けることに意義があると考えています。
(さいとう ひとし)

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