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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

「臨床」環境学と「Muddyな」私

顔写真

附属持続的共発展教育研究センター(都市環境学専攻兼任)
加藤 博和 教授
本教員のプロフィール

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上:岐阜県飛騨市 飛騨古川駅前
下:三重県志摩市 安乗バス停
いずれも私の臨床現場。東海3県を中心に全国の津々浦々で「おでかけ」をしやすくするため今日も東奔西走しています。
「臨床環境学」という言葉をご存じでしょうか。現場で起こる環境問題について、研究者たちが分野を横断し、多様な関係者とともに問題の診断から治療までを行う方法論に関する学問を指します。そして、当研究科が生み出したこの言葉の中身を整え、世に示し広めていくために、2014年に名古屋大学の登録商標となりました。
私は「臨床環境学研修」通称ORT(On-site Research Training)という授業を、開始翌年の2011年度から担当しています。自分がやりたいからではなく、やらなければならなくなったからです。それは10年以上たった今も変わりません。現状では、臨床環境学をやっているだけでは博士や教授にはなれないのだからしかたありません。しかし、臨床環境学をやれる博士や教授をたくさん世に輩出しなければならないし、それが当研究科にとって大事でオリジナルな社会的責務だと思って取り組んでいます。学外での仕事が多い私は、社会がそういった「臨床環境学」を体得した人材を切実に求めていることを痛感しているからです。
昨年、学内での仕事を通じて、理系の一部で「Dry系」「Wet系」という言葉があることを知りました。前者がコンピュータによる解析や予測に基づく研究、後者が実験や観察に基づく研究をすることを指すようです。しかし私は、データ解析を行い、ビデオカメラやカウンタなどを持って現場に行き、役所の会議や住民懇談会に出て丁々発止をやり、講演・研修講師もテレビ出演も国の法改正案作成もやっています。問題解決のためには手段を選んでいる場合ではないからです。さらに、現場の問題の多くは専門分野にうまくはまりません。様々な分野の知見を活用する必要があるし、問題に直面している現場の方々とうまくコミュニケーションをとらなければ、解決どころか現状把握にも至りません。そこに臆せず入り込み、時には泥だらけ、傷だらけになりながら皆さんと一緒に取り組み、実際に解決してみせるのが私の身上ですが、そのためには人一倍勉強していないと戦えません。それを博士後期課程の間に体験する「臨床環境学研修」。多くの学生に履修していただきたいです。そして臨床で活動してくれる人が増えることが本望です。
そんな私は「現場泥まみれ野郎」を自称してきました。大学教授がみなこれではとんでもないですが、持続可能な社会をつくるためには少しは必要です。すなわち、DryでもWetでもなくMuddy、「泥だらけの」という意味です。Muddy系研究者と名乗った方がカッコいいかなあ(笑)。
(かとう ひろかず)

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