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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

被災地の災害復興と「環境」

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社会環境学専攻 2018年度博士後期課程修了
国立環境研究所 福島地域協働研究拠点
辻 岳史

環境学研究科を修了した後、ご縁があり国立環境研究所(国環研)で勤務しています。特定外来生物から気候変動に代表される地球環境問題まで幅ひろく扱う研究所です。国環研に勤務するようになって、私は災害復興と「環境」は深い関係にあることを意識するようになりました。
環境学研究科にいたころ、私は東日本大震災で津波の被害をうけた後、復興のために丘陵を造成して、大規模な住宅団地を整備していた宮城県のある地域でフィールド調査をしていました。当時私は、自治体が進める災害復興計画・復興事業における住民参加の実態を明らかにすべく、行政職員・住民組織へのインタビュー調査を重ねていました。そんなある日、丘陵の山道を登っていると、眼下に山肌がむき出しになった、造成・整備真っただなかの住宅団地の景色が拡がりました。このとき、復興のためとはいえ、丘陵の山林はかくも大胆に改変されるものかと感じたものです。ほどなくして、私は環境影響評価法の規程では、被災地における復旧・復興事業の多くが環境アセスメントの対象外であることを知りました。東日本大震災の災害復旧・復興事業は、環境への配慮と必ずしも両立していないのではないか。被災した地域社会の切迫した政策過程では、なりゆきに任せると環境の優先順位は下がるのではないか。そう考えるきっかけとなる体験でした。
私はいま、国環研が福島第一原発事故後の2016年に開設した福島地域協働研究拠点で研究しています。原発事故からの災害復興を進める福島では、放射性物質対策(除染など)による環境回復と、再生可能エネルギーの利用や気候変動対策を中核にすえた災害復興の取り組みが進められています。自治体・企業・市民などのステークホルダー(利害関係者)のさまざまな価値や思惑が錯綜する福島で、地域社会における災害復興の政策過程に「環境」はどのように位置づけられるのでしょうか。この問いを持ちながら、私はこれからも地域社会のステークホルダーと連携・協働して、環境政策の実証分析・アクションリサーチを進めていきたいと考えています。
(つじ たかし)

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