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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

学生の学際研究が可能な場

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地球環境科学専攻 地球環境システム学
宮坂 隆文 助教
本教員のプロフィール

人と自然の相互作用から生まれる環境問題の解決を目指す環境学は、必然的に学際的(分野横断的)になります。私は砂漠化地域や保護地域における持続的な自然資源管理を主な研究テーマとしていますが、やはりアプローチは学際的です。とは言え、個人の研究スタイルが学際的であることはまだ珍しいと思います。そうなった経緯を理学部地球惑星科学科のコラムに書いたことがありますが、その時は特に学部時代に焦点を当てたので、今回は大学院時代について書こうと思います。
修士課程では、中国内モンゴルでの過開墾による土地劣化を、作物生産量、雑草群落組成、土壌理化学性の変化から明らかにし、さらにそういった土地劣化がどこで起こっているのかをリモートセンシングや地理情報システムにより空間的に抽出する、という研究を行いました。博士課程では、同地域において土地の劣化だけでなく回復に関する生態学的研究、さらに地域の階層的な社会構造とそこでの環境政策の実施プロセス、農牧民の社会経済特性や土地利用における意思決定といった、社会システムに関する研究も行いました。これらの実証研究で得られた成果を、最終的にエージェントベースモデリングという手法で統合し、様々な環境政策シナリオにおいて地域の生態・社会システムがどのように相互作用し変動するのかを時空間的にシミュレーションできるモデルを構築しました。
もともと私は、砂漠化の自然的側面と社会経済的側面を総合的に捉えたいという漠然とした興味を持っていました。一般的に大学の研究室では、学生に対し既存のプロジェクトの中からテーマを割り振るか、学生の(抽象的であるからこそ学際的な)興味の中から専門とする分野で対応できるものをテーマとして取り上げることが多いと思います。それに対し私の所属した研究室では、特に制限なく自らの興味に取り組ませていただきました。実際に研究を始める際は、指導教員の先生から内モンゴルの研究フィールドの紹介、植生調査のいろはの指導、研究経費の負担など様々なサポートをいただき、その後も広い視野から柔軟な(時に放任な?)ご指導をいただきました。また、研究室が生態学系と計画系と呼ばれる学生で構成され、全体としては自然科学と社会科学が共存する環境だったことも、学際研究を行いやすい一つの要因でした。さらに、現在研究者として第一線で活躍されている多くの優秀な先輩、同期、後輩に恵まれたことで、どのようなテーマに手を出しても研究としての専門性は疎かにしないという意識を常に持てたと思います。学際研究は一般的な学位研究に比べ効率面で劣るところがあり、大学院の修業年限や論文数が重視される研究事情などから、反対され実施に至らないケースが多いと思われます。学部時代に得た学際志向を保ちつつ研究者として独り立ちさせてくださった先生はじめ研究室の皆様には、感謝の念に堪えません。
このコラムを書きながら、名古屋大学の環境学研究科、そして私が現在所属する地球環境システム学講座も、学際性と専門性を追求できる稀有な場だと改めて感じました。私も教員の一人としてしっかりサポートできればと思います。
(みやさか たかふみ)

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