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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

私の疑問から始める

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社会環境学専攻 社会学講座
福井 康貴 准教授
本教員のプロフィール

これまで,就職・転職といったジョブ・マッチングや労働市場で生じる不平等に関する研究をしてきました.専門的には経済社会学と社会階層論という分野です.
中学生の頃の私は人生を一本の平坦なレールのように感じていました.学校を卒業して新卒で会社に就職し,家族を形成し,定年退職する.そうしたイメージです.多くの人が似たようなライフコースをたどるのはなぜだろうと不思議に思っていました.正直に告白すると「なんて退屈な人生だろう」と不満を持っていました.本学に着任する前に取り組んでいた大卒労働市場の歴史に関する研究は,こうした素朴な疑問や不満の延長上にあります.新聞や雑誌,統計をかき集め,明治から平成の入口までの約100年間を「就職」という切り口でたどりました.
大学生の就職に関する研究をしていたと言うと,「どうすれば大手企業に入れるの?」と冗談半分に聞かれることがあります.残念ながら就職必勝法を教えることはできませんが,人と仕事のマッチングというものが,人々の具体的な営みによって成り立っていることは伝えることができます.人生は個人の行為によって切り拓かれていくものですが,そこには個人の行為を水路づける社会的な力が働いています.この社会的な力は個人や家族,企業,政府などの様々な主体の関係や相互作用によって形成されるものです.私はこうした関係や相互作用を読み解くことに社会学の魅力を感じていますが,「社会環境」という言葉がこうした力が働く場を指しているとしたら,社会学が環境学に貢献する余地は大いにありそうです.
2000年代に入って日本社会では「格差社会」「貧困」「ワーキングプア」といった言葉が数多く聞かれるようになりました.若年層の非正社員が増加し,新卒で正社員になることを人々は当たり前だと考えなくなっています.今振り返ると中学生の私は自分の生きる社会をだいぶ貧困なイメージで捉えていたと言えます.社会も市場も一筋縄では語れない環境ですが,まずは疑問を持つことが,そのリアルな姿を明らかにし,必要に応じて変革していく出発点だと思います.私も素朴な疑問を大切にしながら今後の研究教育を進めていきたいと考えています.
(ふくい やすたか)

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