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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

名古屋で産業遺産を研究する、ということ

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都市環境学専攻 建築学系
山出 美弥 助教
本教員のプロフィール

長年、西日本を中心に研究を行ってきましたが、この度、縁あって名古屋大学に着任いたしました。着任と同時に新興感染症の流行とそれに伴う授業、研究への影響を体感しながら時代の大きな変革の渦中にいることを認識する日々です。しかしながら「環境」とは常に変化し続けるものであり、それらに対応しながら人類も進化し、独自の文化を形成してきたと思えば、これもまた連続する歴史の一部なのだろうと感じています。
私は都市計画分野において、産業遺産施設の保存活用におけるステークホルダー(利害関係者)の意識構造から、荒廃した産業衰退地域を“歴史と文化の継承地”としてよみがえらせた先駆的事例における事業の促進要因を明らかにしており、その地域の歴史を読み解き、建造物の保存活用を通して文化を受け継ぐことに注力しています。しかしながら、産業跡地には過去の産業活動により生じた土壌汚染などからスティグマ(風評被害)が生じやすく、放棄地となるケースも散見されます。そのため産業跡地で工場関連施設を保存活用する場合は、悪化したイメージを払拭しうる付加価値(オリジナリティ)やアイデンティティを明確にする必要があり、それらを客観的に評価し、次の世代に繋げることが私の役割であると考えています。
近年においては「日本の近代化に貢献した産業・交通・土木に関わる建造物」を近代化産業遺産として認定(文化庁)し、その保存と活用を促進していますが、直ちに文化財としての評価を得るには難しい建物も多く、保存活用への合意が得られないまま解体されているのが現状です。
今日まで日本の経済を支えてきた産業に関する建造物に新たな用途を付加し、守りながら次の世代へ継承することで、建築資材といった資源を守ることにもつながるなど、その先には文化の継承のみならず「環境保全」といった概念もみえてくるのではないでしょうか。また枯渇していく資源に対して、それらを新たな視点で守ることによって“古いものを大切にする心”を育むことも教育機関で研究を行う者の使命だと感じています。
私自身、名古屋という新たな「環境」で新たな「文化」を身につけ、学生の多様な感性を大切にし、彼らと共にこの地域の潜在価値を探っていきたいと思っています。
(やまで みや)

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