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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

雲をつかむ?

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宇宙地球環境研究所
藤波 初木 講師
本教員のプロフィール

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雨量計が設置されているネパール・ロールワリン地域のBedingの風景(標高3,740 m)。
私たちが住むアジアは、モンスーンという雨季を伴う大規模な風系の季節変化が世界で最も顕著な場所です。モンスーンによる豊富な降水が世界人口の約6割を占めるアジアの人々の生活を支えています。北半球の夏には、海からの湿った南風がユーラシア大陸に吹き込み、陸上でも雲や雨が発生しやすい環境がもたらされます。私はこの湿潤なアジアに降水をもたらす様々な時間・空間規模の雲・降水システムに興味を持っています。
最近は世界の屋根・ヒマラヤの雲・降水現象に注目しています。ヒマラヤには氷河が存在します。アジアの多くの大河川はヒマラヤの氷河の融解水を源としているため、降水とともに氷河は流域に暮らす多くの人々の水資源として重要です。また、気候変動にともなう氷河の融解は地球全体の水循環にも影響を及ぼします。ヒマラヤの中部から東部に存在する氷河は、夏の降水によって維持されていますが、その降水現象の実態は驚くほどわかっていません。それはアクセス困難な厳しい自然環境が、現地観測や最新の人工衛星による正確な観測を未だに拒んでいるからです。モンスーンに伴う熱帯海洋からの湿った空気がどのように4000mを越える高標高域にまで輸送され、氷河周辺に降水をもたらすのか。これを明らかにするためには、ヒマラヤだけではなく、モンスーンアジア全体を俯瞰しつつ、熱帯擾乱や地形性降水などの降水システムを丁寧に紐解く必要があります。研究は、多くの方々と協力しながら、現地観測、人工衛星、全球大気のデータを用いたデータ解析や数値シミュレーション等による多角的なアプローチを用いて進めています。
私がいる名古屋大学宇宙地球環境研究所は、名古屋大学の中でも標高が高く、空に近い場所にあります。普段のほとんどはデスクワークですが、日常や野外観測で地球の美しさと不思議さを感じることが私の研究の原動力となっています。コロナ禍で海外の観測に行くことが困難な状況が続いています。研究所の屋上から見える開放感のある空は、コロナ禍であることを少し忘れさせてくれます。
(ふじなみ はつき)

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