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“ごみ”と“ダイオキシン”をめぐる権力構造
「官僚とダイオキシン」
杉本裕明 著


風媒社 ISBN4-8331-1050-4

 地球環境問題が70年代に頻発した公害と異なるのは、全地球的に及ぶ影響の大きさにある。私たちは現在、物質循環を前提とした未来社会への入口に位置している。ゴミ処理は個々人が自覚的に循環型社会を築くために避けて通れない関門である。ゴミ焼却施設と廃棄物処分場は大気・地下水汚染という問題を抱えており、公害と地球環境問題の結節点に位置している。ゴミ処理問題は、環境問題であると同時に、社会・政治・経済の問題でもある。行政の質が問われると言っても過言でない。
 名古屋市民に身近な例は、平成11年1月に計画が断念された藤前干潟の埋立事業である。名古屋市のゴミの量は、平成8年度には100万トン余に達し、分別・焼却された後、25万トン余を岐阜県多治見市の愛岐処分場に埋め立て処分していた。名古屋市民が出すゴミ埋立量は年間1人当り150kg程度で推移してきた。因みに、分別回収が徹底した碧南市の年間1人当りゴミ埋立量は14kg程に過ぎない。
 人口200万を超える大都市で数年以内に処分場が満杯になるという予測のもと、新しい処分場計画が断念に追い込まれる切迫した展開が、『官僚とダイオキシン』第一章のプロットである。時代を見通せなかった地方行政の計画を覆した市民・NGOと環境庁の成果ではある。本書が抉り出す現実を凝視しながら、政治家と官僚あるいは研究者の果たさなければならない役割は、あるべき「未来」を具体的に提示することだと改めて確認した。
 藤前断念を受けて名古屋市は分別回収に取り組み、平成13年度にはゴミ量が80万トンを割る見込みとなった。名古屋市が環境モデル都市と呼ばれるようになったのは、アイロニーか。それにも増して、都会における快適な「文明生活」を送るために各自が支払うべきツケをどこに廻すのか、迷惑施設問題が発する市民個人への問いは重い。

【評:都市環境学専攻 市川康明】

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