知の共創プログラム

参加学生の声

井上 智博(地球環境科学専攻)

私は岡山大学文学部史学科を卒業後、公益財団法人大阪府文化財センターに就職し、大阪府内の考古遺跡の発掘調査を32年間続けてきました。その中では沖積低地の遺跡の調査を担当することが多く、主に水田開発の変遷について、河川活動による地形変化と人間活動の関係という視点から調査・研究をおこなっています。最近は、気候変動が地形形成・人間活動に与えた影響についても興味を持ち始め、気候変動の勉強も始めています。

最近、気候変動の影響もあって、甚大な被害をもたらす水害が各地で発生しています。水害は自然の営力だけが要因ではなく、山地・丘陵での開発や、洪水被害に遭いやすい後背低地での宅地造成などといった人間活動とも関連しています。考古学のデータは、過去の人々が降水量変動・地形変化に適応して、土地利用を続けてきたことを明らかにしています。我々は過去の生活に戻ることはできませんが、気候変動や地形変化に適応し、生活を続けてきた先人の工夫から、持続可能な生活についてのヒントを得ることができると考えています。「知の共創プログラム」では、このような問題意識のもと、古気候学や河川工学などの分野の視点も取り入れて、弥生時代から江戸時代にかけての農業景観の変遷過程を読み解いていきたいと思います。また、様々な分野の研究をおこなっておられる先生方や、それぞれの立場で環境問題に取り組んでおられる受講生の皆さんと交流することで、今まで気づかなかった新しい視点が生み出せるのではないか、と期待しています。

牛山 希実子(地球環境科学専攻)

学士の延長で博士課程前期(修士課程)に入学した当時は博士課程後期への進学を考えておりました。しかし、研究を進めるにつれ、一度社会に出て、社会の仕組みを理解してから、自然と人の共生を推進できる博士論文のテーマを見つけたいと考えるようになりました。そして、環境分野で就職活動を行い、上下水道や工場用排水など水インフラに携わる会社に就職しました。就職してから10年以上が経ち、設計と営業両方を経験し、自治体の顧客や民間顧客との折衝を通じて事業の上流から下流まで幅広い分野での知見を得ました。また、プライベートでは3人の子供を授かり、子供を通じた社会との接点も増えました。自然と人が共生している持続可能な社会の実現のためにはまだ課題があることを実感することも多く、公私ともに様々な経験を積み、学生の頃より広い視野を持てるようになった今、博士課程後期でそれらの課題に取り組めればと思い、進学を検討しました。そのタイミングで今回の知の共創プログラムが開講されたことは偶然ですがとてもラッキーなことでした。環境学研究科の先生方のご指導の下、様々なバックグラウンドを持つ他の受講生の方々と切磋琢磨しながら博士論文に取り組むと同時に、研究テーマ以外でも見識を得て社会人としてもスキルアップしていきたいと思います。水インフラという1つの切り口から得ていた自分の経験が、環境学の学際的な裏付けを得ることで確固たるものとなり、持続可能な社会の1つの形である「循環型社会」の推進に貢献できる人材になりたいと考えております。

佐藤 則子(地球環境科学専攻)

仕事を通して地域コミュニティに興味を持ったことがきっかけで、地域自治や地域づくりを専門に学んでいます。修士課程でお世話になった大学には博士後期課程がなく、修了後は仕事のかたわら他大学で研究員として細々と研究を続けていたのですが、知の共創プログラムでご縁をいただき入学しました。これまで所属していた研究科も文理融合でしたが、社会・人文科学が強かったのに対して環境学研究科は理系寄り(?)。今所属している研究室も理系です。初めは少し心配でしたが、土壌や森林など地域社会に関わりの深い研究をされている学生さんが多く、それらの技術を地域でどう生かせるか興味津々で話を伺っています。同じプログラムで入学された方も専門分野がさまざまですが、根っこの部分では共通するものがあるように感じています。そんな環境で、これから何を知り、何を得られるのか、とても楽しみにしています。

丹羽 美春(地球環境科学専攻)

最近の博物館を取り巻く状況は教育分野に留まらず、広く一般社会への貢献が求められるように変わりつつあります。私は普段、博物館で働いています。自分の専門分野以外の「声」を広く「聴く」ことが求められますが、視野が狭くなりやすく、横断的な関係を持つことはなかなか困難です。知の共創プログラムは、専門知識を向上させることができ、更に普段は関わることのないような他分野の研究者の方々との共同研究もすることができるという点が大きな特徴であり、求めていたことを解決できるのではと考えています。働きながら研究をすることができ、学位を得られるこの機会を逃さず、結果を出したいと思っています。仕事と研究の両立ができるか不安な面もありますが、今後どのような超学際な共同研究ができるのかを考えるととても楽しみです。

学位取得後は教育分野と社会への貢献の両方の側面において、大学で学んだ知識を発信、実践及び分析することで博物館に求められている役割を適切に把握します。その上で、博物館の持つ様々な魅力や機能を最大限活かせる地域に密着した「新しい博物館」を目指します。小さな子どもから大人まで誰にでも開かれた博物館であり続けたいと思っています。

紀平 真理子(社会環境学専攻)

私は主に、農業メディアでの執筆・編集や、農業関連事業でのコーディネーター等の仕事をしており、農業者、メディア、行政、研究機関、民間企業、関連組織などとコミュニケーションをとりながらプロジェクトを進めています。その中で、ステークホルダー間の前提や見解のズレや複雑な利害関係によって前進しない例も経験してきました。そもそも農業は、栽培における変数も多く、また、農業者は個別の価値や評価基準を持っています。そこに関わるステークホルダーの多さから利害関係が複雑になるため、多元的な不確実性が伴います。そこが農業の難しさでもあり、面白さでもあると思っています。

そんな農業分野で、ステークホルダー間の齟齬を架橋して目指すべき方法へ向かうためにはどうすればいいのだろう。そんな思いで、知の共創プログラムに応募しました。

知の共創プログラムには異なる専門分野でありながら「環境」という共通項を持つ仲間とサポートしてくださる先生方がいます。この贅沢な環境の中で研究を進め、成果を実際に現場で活用していきたいと考えています。そして将来は、農村部やローカルの小集団のネットワークに深く関与しながら課題を発見し、新たに得た科学的知見や技量で実際に課題を解決していきたいです。

塚原 沙智子(社会環境学専攻)

知の共創プログラムに参加して数か月経ち、学生同士の交流やセミナーが始まりました。今、改めて、本プログラムの掲げる「超学際的」な協働が生み出すものの可能性を感じています。

私は、行政に携わってきた立場から、持続可能な社会への移行は、あらゆるステークホルダーによる総力戦で取り組まなければ達成し得ず、異分野間の理解とスムーズな協働の実現が鍵であると考えてきました。しかし、実際には、地域や現場レベルで共通の価値観を共有したり、シナジーを生み出したりということには困難が伴い、自分が実践できるアプローチに限界も感じていました。そこで、自分自身が分野横断的な新しい価値や評価基準を提案していける能力を開発するため、本プログラムに飛び込みました。

知の共創プログラムには、一期生には8人の同期がおり、バックグラウンドやテーマは様々です。それぞれが向き合う課題について共に学び、お互いの持つものを提供し合いながら、新しいことへチャレンジしようという姿勢を共有できる、とても心強い仲間たちに恵まれました。また、プログラム全体として、教員と学生が共に模索し、実社会におけるブレークスルーを探していこうという連帯関係があり、産官学の連携をプログラム内で体現できる面白さがあります。

長い間アカデミアからは離れており、勉強しなくてはならないことは沢山あるのですが、この環境を活かして多角的な視点を養い、納得できる成果にたどりつきたいと思います。そして、学位取得後は、培ったものを脱炭素や資源循環政策など、行政のフィールドでの実践に活かしていきたいと考えています。

山下 紀明(社会環境学専攻)

修士課程の頃から20年近く地域の再エネ促進の計画作りに関わってきましたが、近年の太陽光発電の地域トラブルや規制条例についても調査を行うなかで、どのように各地で合意形成を進めていくかが大きな課題と感じていました。そこで、現場の課題に対して集団指導による問題解決型教育や柔軟な履修モデルが提供される本コースを志望しました。

プログラム開始から2ヶ月弱が過ぎ、これまで自分が専門的に関わることのなかった分野の研究から示唆を受けたり、公開合同セミナーの打ち合わせで同級生と共通の悩みを話したりと、本コースの仲間やゼミでの議論から多くの刺激を受けています。研究テーマである「地域における太陽光発電ゾーニング検討のための可視化ツールとワークショップ手法の開発と効果の検証」については、これまでほとんど扱ったことのないGIS(地理情報システム)を学ぶと同時に、合意形成プロセスの文献を整理しているところです。研究面ではまだ試行錯誤の段階ではありますが、日常の仕事と関連しつつも新しいチャレンジをしている点に充実感を感じています。

本研究で開発した支援ツールやワークショップ手法を活用し、多くの地域で太陽光発電をはじめとする再エネの適切なゾーニングと合意形成が進めば、2030年および2050年の地域や日本全体の再生可能エネルギー目標達成やカーボンニュートラル目標達成に寄与することができると考えています。その際に、地域の望ましいあり方について議論が進み、地域経済やまちづくりに貢献する再エネ事業や自然共生型の再エネ事業が増えていくことを期待しています。

米田 立子(社会環境学専攻)

この記事をお読みになっている皆さんは、博士課程、特に実社会との接点を持ちながらの学位取得にご関心があるものと思います。

私もその一人です。社会人になってから20年、これまでも仕事の内容をアカデミックな視点から見つめなおす必要性を感じていました。特に、私が携わる農業環境の国際交渉の場面では、アカデミックなエビデンスや論拠は議論に必須であり、担当者にもそういう視点が求められます。

そういった関心を満たすことができるプログラムを探したときに、この「知の共創プログラム」に出会いました。全くの外部からの飛び込み、かつ業務との両立について若干不安もありましたが、先生方にプログラムの方向性についてご説明を受け、指導教官となる先生にご相談する中で、もうここしかないな、と思い入学しました。

このプログラムは、文理どちらの観点からも環境や持続可能性を研究できる点が最大の利点だと思います。私自身もともと、いわゆる文系のバックグラウンドですが、環境や持続可能性を議論するには、科学的な、いわゆる理系の知識はもはや必須です。この両者を、学生の関心に合わせて組み合わせた研究ができる点が特徴ではないかと思っています。

近年、農業・食料の世界では、いかに持続可能な生産流通消費システムを作るかが最大の論点になっています。私の研究も、実社会へどのような還元ができるかが問われると思っています。そういったいわゆる「出口戦略」を念頭においた実践的な研究を、このプログラムで進めていきたいと考えています。