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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

安全で快適な歩行者空間の構築にむけて

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都市環境学専攻
張 馨 特任助教

「なんで車の方が止まるの?」私が,十数年前中国から日本に来たばかりの頃,無信号の横断歩道を渡ろうとする時に車が私の目の前で止まったことに驚きました。呆然としている私に運転手が「どうぞ」と合図し,そこで初めて道を譲ってくれたことに気がつきました.その後,歩行者だけでなく,無信号の交差点で出会う車両間や駐車場などから道路に合流する車両が互いに譲り合う場面を目にし,譲り合いの精神で成り立っている交通ルールに興味を持ち始めました。
年数を重ねて学校での交通安全教育や運転者向けの安全講習や,自動車学校での授業など交通安全教育の機会に出会いました。その安全教育では,子供たちが横断歩道を渡る時に手を挙げることや夜間に目立つ服装で外出するなど,歩行者側が自分の安全を守る行動を取るように指導しています。運転者側にも無信号の横断歩道付近で歩行者がいたら,必ずスピードを落として渡るかどうか確認する,渡りたい歩行者がいたら譲るなど呼びかけています。しかしながら,ここまで譲り合って安全教育も入念に行っている日本でも,まだまだ交通事故件数が高い,特に交通弱者の歩行者の交通事故が三分の一も占めていることに驚きました。如何に安全で快適な歩行者空間を構築することが困難なのか改めて痛感していました。
それからますます道路への興味が深まり,交通工学に飛び込みました。研究者の視点に立つと,交通ルールだけではなく,道路の計画や設計,運用方法が利用者挙動に強く影響することがわかりました。利用者と設計者の間に入り,利用者の挙動に沿って,「安全・安心・円滑」に利用できる歩行者空間を構築するために必要な条件を探り出すのが我々研究者側の使命です。例えば,横断歩道において歩行者が優先権を持っていますが,車両と空間を共有していることで車両との交錯リスクはゼロではありません。運転手の歩行者の見落としなど安全不注意の原因で多々事故が起こります。そのため,歩行者の安全性向上のために歩行者用信号と車両用信号を適度に分離する歩車分離式信号方式のような運用にも工夫しています。一方,歩行者の安全性と自動車の円滑性はトレードオフの関係にあり,分離する時間が長ければ歩行者の安全を守られるが車両側の交通容量が下がるなど課題もあります。
これから,これらの課題に対応する歩行者と運転手両方の立場に立った設計について,利用者挙動や横断歩道の幾何構造や交通状況を合わせて最適解を導く研究に取り込んでいきたいと思います。
(ちょう けい)

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