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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

政策競争・政策協調と環境問題

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社会環境学専攻 経済環境論講座
松本 睦 教授
 (専門:地方財政、地域経済学)
本教員のプロフィール

私の(狭義の)専門分野は、租税競争・財政競争です。地域間で展開される政策競争や政策協調の分析を行う分野です。この場合の「地域」は、一国内の地方政府や自治体あるいは国際的には国家を指します。そして、分析対象となる「政策」には、税・支出政策に加えて、環境基準や労働基準等の各種規制も含まれています。
この分野における標準的議論は、「地域間競争は底辺への競争に繋がる」というものです。環境問題の文脈では、「汚染を生み出す企業に対して過度にルーズな環境基準や軽い税負担が課せられることにより、環境問題が深刻になる」という解釈になります。各地域は経済振興のために資本誘致・企業誘致を行いますが、誘致のために環境基準の切り下げが行われるという危険があります。経済振興の利益は地元のみに帰着する一方で、大気・水質汚染等の環境ダメージは他域・他国を巻き込むケースがしばしば見られます。他域・他国への悪影響は基本的に政策決定上考慮されないため、他域・他国を踏みつけてでも経済振興を図るという「望ましくない」行動を誘発します。
底辺への競争を防止するには、何らかの政策協調が必要とされます。しかしながら、政策協調に関して必ず問題になるのは、「維持可能性」です。協調政策に当事者の地域や国が同意しても、すぐにその一部が離脱してしまうようでは意味がありません。このような状況は、ゲーム理論の基礎である「囚人のジレンマ」と基本的に同じものです。協調状態が望ましいと分かっていても、「抜け駆けして利得を得ようとする」ケースや「相手が協調を守るか否か確信できない」ケースでは、いとも簡単に協調は崩壊します。実際に、京都議定書やパリ協定からあっさりと抜け出した大国がありました。似たような状況は、軍縮関係の国際合意にも見られます。どのような分野で協調をするにしても、「維持可能性」を担保するために、当事者に対して「確実にコミットメントするインセンティブを付与」するメカニズムを組み込んでおく必要があります。
(まつもと むつみ)

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