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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

恵みの水・災いの水

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地球環境科学専攻 地球環境変動論講座
坂井 亜規子 准教授
 (専門:氷河学)
本教員のプロフィール

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いつもは穏やかな氷河からの流出河川が
濁流となって道路が冠水した
自分が環境学をやっているとふと気が付いたのは、沙漠の縁にある山脈にかかる氷河の観測を行った時だった。この氷河の融解水は沙漠へと流れ下り、オアシス都市や農地の貴重な水資源となっている。私はその年氷河の融解開始から終わりまでをとらえようと4か月間現地滞在の観測計画を立てた。観測を行っている間は我々もそこで生活をし、生活用水は氷河からの融解水のみである。しかし融解期が始まる前に観測を始めたため、水はなかなか流れてこなかった。このとき、私はこの地域の一住民として、水不足の不便さを味わったのである。やっと氷河が融解しはじめたある日の夕方、コボコボと濁った水がキャンプ地に流れてきた時の感動は今でも忘れられない。
実はこの計画が立てられたのは、研究会の「夜の部」において「オレは今年は融解期の最初っから最後までびっちり観測しますよ!がんばるっす!」という後輩の酔った勢いによる発言からだった。当時プロジェクトの中での氷河班のまとめ役であった私は、融解期のはじめと終わりのみ測器を設置・回収すればよいかと考えていたのだが、この後輩の言葉を真に受けて、次の日の会合で「今年の氷河班は融解期4か月全部入ります。」と言ってしまった。当の後輩は昨夜の記憶はどこへやら「オレそんなこと言いましたっけ?」とコソコソ言い出す始末。後輩の尻拭いは、まとめ役である私がやらねばなるまい。
そんなこんなで始まった観測だったが、水不足以外にも大きなイベントがあった。ダストストームの襲来である。氷河がダストに覆われ表面が薄汚れたため、日射を効率よく吸収し氷が融解できる条件がそろった。そして氷河から大量の融解水と折からの雨も交じり、水位計2台が流されてしまうような濁流を目の当たりにした(図)。乾燥域は洪水が起こりやすいとも聞いていたのだが、恵みとしての水、災いとしての水を同時に見ることができ、貴重な経験となったのは言うまでもない。今では私は全くの下戸になってしまったが、「酔った勢い」というのは時に大事なこともあると思い返される出来事であった。
(さかい あきこ)

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