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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

岩石学者の環境学問題

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地球環境学専攻 地質・地球生物学講座
道林 克禎 教授
本教員のプロフィール

“天地人”という単語には宇宙の万物の意味がある.興味深いことに,ほぼ同じ思想が西洋にもあって,天はマクロコスモス,地はジオコスモス,人はミクロコスモスに相当する.マクロコスモスは大宇宙,ミクロコスモスは小宇宙と訳すらしいが,ジオコスモスはどうしたらいいのだろう?天と人の間に位置するので中宇宙とするのが妥当かもしれないが,なんだか意味不明である.地宇宙って直訳っぽくすると,語呂的に矛盾を感じてしまう.だから訳さずにそのままにして話をすすめたい.
“環境”という用語は,多くの場合にミクロコスモスである人に関わる環境問題に使われる.これはとても重要なテーマだと思うが,私にとって環境学の“環境”はジオコスモスでありマクロコスモスである.ジオコスモスである地は固体地球であり,そのほとんどは岩石とよばれる物質である.この岩石は我々の世界(ミクロコスモス)に欠かせない身近な存在でもある.こじつけがましいが,岩石はジオコスモスとミクロコスモスを結びつける物質であり,私にとっての環境学は,岩石学であり地球惑星科学なのである.
“岩石”という用語は,“鉱物”とよばれる自然界に存在する結晶の集合体の総称を表す.4000種以上ある鉱物のなかでもっとも身近なものは,水晶として親しまれている石英かもしれない.石英はSiO2だけを成分とする最も単純な鉱物であるが,惑星科学的にはとても貴重な鉱物である.一方,地球で最も多い鉱物はブリッジマナイト(化学組成は(Mg,Fe)SiO3)とよばれる結晶であるが,2014年に初めて同定された超貴重な物質であり,身近な岩石には決して含まれないし探しても見つからない超希少種である.
なぜ貴重な鉱物が普通で,普通な鉱物が貴重なのだろうか?たぶん,私たち生命が貴重な存在であるから,である.生命を育む環境(ミクロコスモス)は,ジオコスモスの希少な部分に属しているのではないか.だから身の回りの貴重な鉱物も普通に存在するのではないか.もしそうであるならこの世界(ミクロコスモス)はジオコスモスの環境下でどのように生まれてどのように成り立っているのだろうか.私にとっての環境学の大問題である.
(みちばやし かつよし)

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