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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

雨の不思議に迫る

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地球環境科学専攻 地球水循環科学講座
宇宙地球環境研究所
増永 浩彦 准教授
 (専門:衛星気象学・熱帯大気力学)
本教員のプロフィール

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コロラド州で出会った雨雲
私は2006年名古屋大学に赴任しましたが、それ以前は米国コロラド州立大学にて衛星観測から降水量を推定する研究に取り組んでいました。研究室の建物は小さな丘の上に建ち、東を眺めると地平線まで視界を遮るものは何もなく、ときおり遠くに湧き起る巨大な雨雲に思わず目を奪われる機会が幾度となくありました。雲や雨の研究は、数値天気予報や水害監視など社会とかかわりの深い応用研究であると同時に、身近な現象を通して大自然の神秘に魅了される純粋科学でもあります。
現在の地球は平均して年間1mほどの降水量があり、衛星画像を眺めると世界のそこかしこに絶え間なく出現する雨雲の群れを目にすることができます。この事実自体、地球科学における深遠なる驚異のひとつと言えます。大気を持つ太陽系の惑星にとって雲はありふれた存在ですが、雲が雨となり広大な海を湛えるに至った天体は地球だけです(唯一の例外として土星の衛星タイタンにはメタンの湖が点在することが知られています)。地球が太陽からほど良い距離に位置することに加え、地球エネルギー収支・大気水収支・大気循環・地形・海陸分布など、多岐にわたる要素が複雑に絡み合う気候システムの妙が、恵みの雨に潤う豊かな地球環境を作り上げました。このような気候の成り立ちを丁寧に紐解き、地球を『水の惑星』たらしめる雲や雨の不思議に迫りたいという想いが、私にとって研究の原動力になっています。
研究アプローチは地球観測衛星データ解析が中心です。人工衛星観測技術の目覚ましい進展のおかげで、地球上場所を問わず雲・降水・気温・湿度など大気の状態を詳細に調査することができるようになりました。中でも私は、温帯よりも降水発生メカニズムに謎が多い(また地上観測手段の限られる)熱帯の大気力学に強い関心をもっています。データ解析はもっぱらオフィスの計算機端末で行いますが、大学にいながら世界中至るところに立ち現れる雨雲に想像力を羽ばたかせる、とても自由でグローバルな研究です。
(ますなが ひろひこ)

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