ホーム > 環境学と私

このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

気候変動問題との出会い

顔写真

社会環境学専攻博士後期課程2017年修了
環境省地球環境局総務課研究調査室室長補佐
長谷 代子
 (環境法、気候変動)

写真
気候変動枠組条約COP22 マラケシュにて
2002年、ツバルという国が、気候変動の結果海面上昇で国土が沈んでしまう危機に直面し、米国や豪州に対する訴訟を準備、という新聞記事のコピーを父から渡された。当時民族紛争の続いていたスリランカの人権NGOでインターンシップを終え、弁護士で構成される環境NGO(事務局は名古屋)で働き始めたばかりであった私に、環境と法律というキーワードから、教えてくれたのだと思う。正直その当時は、温暖化って聞いたことあるな、因果関係の立証どうするのかなぁ、と思った程度である。
私の中で、気候変動の問題がクローズアップされてきたのは、2007年からである。京都議定書採択から既に10年、我ながらずいぶんと鈍いものだと思うが、その年はIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change、気候変動に関する政府間パネル)が第4次評価報告書を出し、現在生じている気候変動は、近代革命後の人類の活動による温室効果ガス(GHG)濃度の急激な増加が原因である可能性が非常に高い、と発表した。京都議定書の第一約束期間を翌年に控えていたこともあり、JICAやJBICで気候変動のための部署が立ち上がり、国際協力と国内対策の双方で民間企業の関心が高まった年でもある。
その後日本でGHG削減量の認証制度に携わり、インドネシアでJICAが行う類似制度の能力強化プロジェクトに参加した。関わり始めた当初は、大気中に普通に存在している二酸化炭素の自由な取引市場が成立するという仕組みが、何度聞いてもよく理解できなかった。世界中で生じたGHGの削減量が、政府や企業だけでなく、個人としていわゆるオンラインショッピングで購入できてしまう状況に、純粋に驚きと興味を覚えた。そうした素朴な疑問が、未だに研究の原動力となっていると考える。昨年は、フランスのUNESCO本部で気候変動適応策の一つでもある防災関連の業務に従事し、今は日本の環境省でIPCC関係の業務を担当している。50年、100年という時間軸の議論もあれば、今日まさに起きている洪水や台風の対策の議論もある。第一線で活躍する研究者に触れ、自然科学と社会科学の役割、科学と政策の在り方などの議論を目の当たりにして、刺激を受ける日々である。
(はせ のりこ)

PAGE TOP