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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

「責任」「責務」「義務」「法的義務」

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社会環境学専攻環境法政論講座2012年満了
富山大学准教授 神山 智美
 (環境法・行政法)

大学というところに就職して6年目になります。前任校は北九州の私学で3年間、本学(富山大学)では3年目になります。自然資源管理(自然資本経営)分野を主に研究してきました。環境法のなかでも、人と自然と社会がかかわる問題に興味があります。これこそが環境法が環境法たるゆえんだと思っているからです。主たる研究テーマは、財産権と環境保全とのかかわりです。特に、環境行政法分野において「個人の財産に公益性を発揮させるための法理と手法」を研究しています。つまり、保護が求められる対象(例として森林、残したい景観および希少な野生動植物種等)は、保護を主張する人の所有物ではないことが少なくありません。その場合には、他人の財産に一定の制約を課すことも求められるでしょう。一方、我々がもしもその財産の所有者であれば、一定の制約に服さねばなりません。このように環境を守るためには、個人がコミュニティに対して担うべき「義務(責務)」があると私は考えており、それを法的なものとするための法理と手法について研究しています。
これまでの日本は右肩上がりの時代に対応して、各種の法制度を整備してきました。しかし、そういう前提は崩れつつあります。土地に対しての意識も変わってきました。平成27年度土地問題に関する国民の意識調査(平成28年6月)では、「土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産か」という質問に対し、「そう思う」と答えた人の割合は、調査開始以来最低となる30.1%となっています。平成5年度調査においては6割を超える人が「そう思う」と答えていたことと比べると、急速な変化が確認できます。空き家や管理されない人工林を例としてもわかるように、もはや、すべての土地に対して所有権を強く主張する人がいるという前提は崩れつつあります。こういう時代にあっては、自然の過剰利用(オーバーユース)のみではなく、過少利用(アンダーユース)や不作為によって生じる環境負荷を減じるための制度構築も不可欠になっていると考えます。
現実の問題に直面して、この事態を良い方向に導けるような規範および手続等を研究していくことが、私の責任であると改めて思う次第です。
(こうやま さとみ)

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