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このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

隕石から太陽系の成り立ちそして地球生命の起源を探る

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地球環境科学専攻 地球化学講座
橋口 未奈子 助教
(専門:宇宙有機化学)

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1969年9月にオーストラリアに落下したマーチソン隕石の欠片。1 mmほどの大きさのこれらの粒子にも,多くの情報が保存されている。
隕石とは,宇宙から地球に飛来した固体物質のことです。 愛知県では2018年9月に落下した小牧隕石,また,2013年2月に大きな火球が観測され世界中で話題になったロシアのチェリャビンスク隕石は,記憶に新しいかもしれません。
星を眺め,宇宙に想いを馳せ,宇宙の成り立ちを学びたいと漠然と決めた当初,私は望遠鏡や理論計算による研究に関心を持っていました。しかし,大学学部時代に隕石を目の前にし,その考えが一変しました。最初に間近で見たのは,1999年9月に神戸市の民家に落下した神戸隕石でした。隕石は太陽系のロゼッタストーンと言われます。46億年も昔の,太陽系で起こった出来事が記録されているのです。宇宙からの贈り物が目の前にある。それを手に取り,観察し,分析が出来るということに大きな魅力を感じ,迷わず今の道に進みました。
私の研究対象は隕石に含まれる有機物です。隕石には,宇宙で作られた有機物が保存されています。多くは地球上で見られるケロジェンという物質に似た高分子の有機物ですが,興味深いことにアミノ酸や核酸塩基などの生命の源となった物質も含まれます。近年では,糖が含まれていることも明らかになりました。このような隕石有機物はどうやって形成したのかを,隕石を直接観察・分析することで調べています。これは,宇宙・太陽系の成り立ちを探ることであり,地球生命の起源を探ることにも繋がります。
地球には,隕石を含む宇宙からの飛来物が年間1万トン以上降り注いでいると言われています。飛来する隕石の量は地球の全重量からすれば微々たるものではありますが,原始地球 (生まれたての地球)に飛来してきた数多くの隕石,その中に含まれていた有機物は,地球生命誕生の原料となった可能性があります。また,白亜紀末に恐竜全盛期を終わらせたとされる大規模寒冷化は,隕石の衝突によるものだということは広く知られています。このように,隕石は地球環境にも大きな影響を与えてきたことが分かります。
“隕石が落ちてきたと大騒ぎをして終わり,あとは記念品としてとっておくというのでは,せっかく天から授かってきた貴重な資料の価値を抹殺する,天を冒涜する行為であると思います。”
(「隕石 -宇宙からの贈りもの- 島正子著より」)
これは学部生のときに読んだ本の一節です。今でも時々読み返すのですが,若輩ながら初心を思い出させてくれる大事な本の1つです。非常に小さな隕石の欠片にも,宇宙における様々な情報が残されています。貴重かつ希少な試料 (資料)であるからこそ,そこから重要な情報を引き出さなければならないのだと,その重要性を忘れることなく,今後も新たな研究に邁進していく所存です。
(はしぐち みなこ)

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