環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員や修了生がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。
南極氷床の、まだ見ぬ風景

地球環境科学専攻 気候科学講座
近藤 研 助教
専門:雪氷学
本教員のプロフィール
極地には雪と氷で覆われた世界が広がっています。人間社会から隔絶されたこの環境を知るためには、自然に分け入っていく野外観測技術が必要です。日本の南極観測黎明期には大学山岳部出身の研究者が活躍した歴史がありますし、名古屋大学の歴代の氷河研究者には8000m峰の登頂者が複数人います。かくいう私も北海道大学の山岳部で本格的な山登りを始めた頃から「環境学」につながる経験が始まりました(8000mは登っていません)。当時の私の頭の中は山で見る自然の美しさでいっぱいでした。中でも雪に覆われた真っ白の景色を見ると気分が高揚して、いても立ってもいられなくなります。これは今でも全く変わらず、新鮮な感動を抱えながら雪と氷に覆われた南極氷床の変動を研究しています。
南極にはまだ人間が見たことのない景色がたくさんあります。その一つが南極氷床の「底面」です。氷床底面ではわずかな氷融解によって水路や氷底湖が形作られ、氷床の流動や質量変化に大きな影響を与えています。しかしながら厚い氷の下の観測は容易ではなく、南極氷床の底面はまさに地球に残された未探査領域です。氷の下にどれくらいの水が蓄えられ、どれくらいの速さで流れているのか、光から隔絶された氷下の湖に生態系は存在するのか、過去の環境変動を紐解く手がかりが保存されてはいないか……?わかっていないことは山積みです。こういったことを考えていると、大学生のときによく読んでいた極地探検家の仕事を思い出します。地図上の空白地帯がくまなく探検された現代ですが、未知のフロンティア的な領域に挑み、かつての探検家の真似事のようなスピリットで極地に向かうことができるのは、私にとっての研究の醍醐味です。景色の美しさや山の頂上に魅了されて始まった環境学とのかかわりですが、今では雪や氷の世界の成り立ちをより良く知りたいという欲求に変容しました。急激に変化する氷河氷床の姿を自分の目で見つめ、考え、雪と氷の世界が今後も続くことを願って研究に取り組んでいます。

(こんどう けん)