ホーム > 環境学と私

このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

建築物の耐震工学研究

顔写真

減災連携研究センター 都市環境学専攻建築学系(兼務)
長江 拓也 准教授
 (建築構造)
本教員のプロフィール

近代から現代への過渡期に現れた鉄筋コンクリート造建物と鋼構造建物は,この100年余りで急激な発展を遂げ,街並みを一変させました。地震国の建物では,地震に耐える構造性能が特に重要な要求性能になります。鉄筋コンクリート部材が外側からの力に耐えるとき,内側では押される力に強いコンクリートと,引っ張られる力に強い鉄筋が,互いの強みを活かして相互協力します。さらに鉄筋には,弾性範囲を超えても,力を保持しつつ伸びて粘る性質があります。この鉄筋の特長が,鉄筋コンクリート部材として十分に発揮されるようにバランスよく連携することで,大地震に対する安全性は飛躍的に向上します。結果,60メートルを超える超高層鉄筋コンクリート造建物の建設も現在,盛んに行われています。
ただし,粘る柱や梁でも,限度を超えて大きく何度も曲げられると,やがてコンクリートが破壊し,力を保持できなくなります。仮に,多くの部材が破壊し,骨組としてある限界状態に達すれば,超高層建物でも崩壊に至ります。設計時には,柱と梁の曲がり具合の最大値を,破壊の相当手前に設定しておくことで,想定以上の大地震に対する安全性を間接的に保証しています。では,柱や梁において,曲がり具合が設計値を如何ほど超え何度繰り返されたら破壊が生じ,さらには,破壊した部材が骨組内の何処に如何ほど発生したら建物が崩壊するという最も危険な状態に至るのでしょうか,そして,設計想定の地震を超える大地震が起きたとして,如何なる威力を有していたらそのような状態を引き起こすことになるのでしょうか・・・このような直接的な問いへの回答は,実は容易ではありません。
科学的,技術的知見が相対的に少なかった時代において,先達は高度な工学判断を用いて,我が国の街並み,都市を形成する建物群を世に送り出してきました。今後は加えて,現在の知見を十分に利用することで,将来起こり得る各種地震に対する建物の損傷程度,崩壊への余裕度を具体的に表現する性能評価が求められます。その情報に基づき,被害を効率的に軽減する新技術についての研究開発にたゆまず取り組むこともまた極めて重要です。
2015年9月の赴任前まで在籍した防災科学技術研究所では,世界最大の震動実験施設を用いた実大実験によって,長周期地震動を受ける超高層鋼構造建物の調査開発研究,および鉄筋コンクリート造建物の高耐震化技術の調査開発研究に取り組みました。昨年冬,当施設の所管部局と減災連携研究センターは,互いの強みを活かして相互協力する連携協定を締結しました。名古屋大学においては,建築構造の基本に立ち返りつつ,関係機関と連携し,引き続き,普及性に優れた高耐震技術の開発,長周期地震動と超高層建物の研究等に取り組んでいきます。
(ながえ たくや)

PAGE TOP