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日本の街路はなぜ快適でないんだろう?
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日本の街路はなぜ快適でないんだろ
大川睦夫

 今年の春も研修と休暇を組み合わせて5週間ドイツに滞在した。私の定宿はベルリンの「動物園」駅という名前の中央駅から近距離鉄道で西に一つめの「サヴィニー広場」駅から徒歩3分の便利で静かな住宅街にある民宿(ペンション)だ。東京にたとえれば有楽町というところで、銀座にあたる高級商店街クーダム通りにも近く、各国料理店が軒をつらねるカント通りでは世界中の料理を楽しむことができ、専門書が揃っているキーパート書店も古書店街もドイツ・オペラ劇場も歩いて行ける。
 仕事に通うベルリン自由大学は戦後東ドイツに接収されたフンボルト大学の代わりに市の南のはずれに急いで造成された大学街なので、地下鉄で行くしかない。また、時々訪れて中庭で店を広げている新古書市で「ベルリン 気ままに立ち寄るバー・カフェ・レストラン」のような本を買ったフンボルト大学も一度歩いたら1時間近くかかった。
 いくら学内行政から解放された自由の身とはいえ、時間の浪費は許されないが、仕事以外の時間はほとんど徒歩で用を足していた。「春は名のみの風の寒さや」という感じの三月だが、歩いているうちに体も暖まってくると「どうしてドイツの街中を歩くのは日本と違ってこんなに気分がいいのだろう?」という疑問が湧いてきた。以下は私なりの結論だ。
 ただし、この文章は「都市計画の不在」などという大所高所的観点でなく、日常体験にもとづく断片的感想にすぎないことをお断りしておきます。

【広い歩道】
 まず、歩道が非常に広くてゆったりしている。マーラーという作曲家はウィーンの旧市街を囲む環状道路を歩いて回るのを日課にしていたという。この街にも私は一ヶ月以上滞在したことがあるが、市の外壁を取り払った跡に作られた大通りの歩道も驚くほどの広さを誇っていた。私の経験ではヨーロッパの都会の歩道はたいてい日本と比べものにならないほど幅広くてゆったりしている。これに比べ日本の都会の歩道は都心部だけ多少広めに作ってあるが、それ以外は惨めなほどに狭い。

【公共交通の整備と歩道上の自転車走行禁止】
 次に、自転車が歩道上を走って歩行者を脅かすことがないので、考え事をしながらでも安心してのんびり歩ける。日本では狭い歩道まで自転車が「ドケドケ!」と言わんばかりにうるさいベルを鳴らして走り過ぎて、足元がおぼつかない老人や幼児たちを脅かしている。
 これに対し、ドイツでは歩道の自転車走行は幼児以外には禁止されているし、市街地では地下鉄やバスの路線網が整備されているので、通勤通学や買い物に自転車を使わなければならない人は少ない。自転車は本来天気の良い日にスポーツとして楽しむ道具なのだ。
 その点、名古屋市は大都会の割に公共交通が発達していないので「トヨタの城下町だから、車利用者優先の街づくりをしてるんだろう!」などと馬鹿にされるざまだ。だから、地下鉄駅周辺は駐輪自転車があふれ、狭い歩道を自転車の若者が危険な速度で走っている。

【ウィンドウ・ショッピングを楽しめる街づくり】
 第三にドイツの都会では歩道に面する店は小さな個人商店でもショウ・ウィンドウの飾り付けに工夫を凝らしていて、閉店後もウィンドウ・ショッピングを楽しめるように遅くまで照明を絶やさないので、買い物の当てがなくてもつい足を止めて見入ってしまうことが多い。日本では商店の造りが違うので退屈な街路も仕方がないかもしれないが残念だ。
 高級商店が立ち並ぶクーダム通りでは広い歩道の中ほどに四面ガラスのショー・ケース(?)が列柱のように立ち並んで道路に彩りを添えている。私も、このケースに置かれた古書に興味をひかれたのがきっかけで、ビルの2階にあって目に付きにくい稀覯書専門店を見つけ、400年前にアムステルダムで発行されたアジアの貴重な古地図を買うことができた。

【唯一日本の誇り一犬糞事情】
 これまで、ドイツの優れた点を羨ましい思いでほめてきたが、最後に日本の街路の優れた点を一つだけ指摘しておこう。それは道路の犬糞事情である。旧西ベルリンは東西ドイツ再統一前は犬と老人が多い活気のない孤立した都市として知られていた。日本の都会でも近年犬を飼う人が急増して、名大構内でも犬を散歩させる人がふえているが、道路上で犬の糞を見ることは稀で、それだけ飼主のマナーが向上してきたと言えるのだろう。
 これに対し、ドイツの都会は糞の始末という点ではやや遅れをとっているようだ。私は10年以上前に南ドイツのフライブルクの歩道上で枯葉に半ば隠れた糞をもろに踏みつけて滑った調子に危うくその上に倒れこみそうになって、「糞っ!」と口走った不快な経験がある。(ちなみにドイツ語でも「糞っ!」を表す「シャイセ!」という語があり、最近では若い娘たちやルフト・ハンザ航空の男性乗務員までが仲間内で口にするようになった。)
 旧東ベルリンの大通りに面した商店の前の歩道に大きな糞をさせて商店主から怒鳴られた男が、ニヤニヤしながら始末もしないで歩き去ったのを見たこともある。
 最近ではこのようなひどい例は少なくなっているが、それでも歩道に植えられた樹木の周りの舗装されてない場所で飼犬に糞をさせていることがまだ珍しくないので、日暮れ時には糞を踏まないよう気をつけた方がいい。

【日本の道路の改善策】
 ということで、日本の道路事情、特に歩道環境について述べてきたが、その結果、今後私たちが努力すべき中長期の目標も明らかになった気がする。
 第一に、車道を狭めてでも歩道を拡張してゆったり歩ける空間を確保する。
 第二に自転車専用道路を拡充する。
 第三に、地下鉄、バス路線を整備し、できれば市街電車も復活して通勤や通学に自転車を使わなくてもいい街づくりをする。そして、自転車専用歩道が整備されるまでは歩道上の自転車走行を原則的に禁止し、幼児も老人も安心してのんびり歩ける歩道を確保する。
 第四に、街路に面するビルの一階は銀行などのオフィスに遠慮してもらい、商店街としてウィンドウ・ショッピングを楽しめる楽しい街づくりに努める。
 最後に、日本が誇る犬糞の自己責任マナーを世界に広める。

後記;機会があれば次回には車道について書いてみるつもりです。
 なお、これまでに東西ヨーロッパ諸国のほとんどを歩いたり車で通り抜けたりしましたが、まだイギリスとアメリカ合州国は飛行機の乗継ぎのために休憩しただけなので、英米の道路事情に詳しい方の情報提供を期待します。宛先は次の通りです。

 FAX:052-777-4091 E-Mail:ohkawa@sb.starcat.ne.jp

ベルリンの街頭音楽家
ベルリンの街頭音楽家

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