環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 自然の中での科学

顔写真
地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座
竹内 誠 教授
(地質学)
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つの日の頃からか,私は野外調査の出張日が近づくにつれて口数が少なくなり,出張から帰った日から少し不機嫌になることに気づきました.
は,野外調査を中心にして,日本列島を含む地球の歴史を研究しています.調査は,山間部の道路沿いの岩壁,川沿いの岩盤,道なき沢沿いに露出する岩盤などを観察し,その岩石や地層に刻まれた地球の歴史につながる情報を集めています.冒頭の事象はこの岩石や地層には関係ありません.それは自然の中での野外調査を重ねることで,私が自然の姿を認識し,またそれに対する人類の行動があまりにも浅はかであることを自覚したことによるものです.
深い山間部での調査は,自分の体力と経験による判断を武器として,自然の力との戦いです.自動車などは当然入ることができない地域で,徒歩による調査になります.また無事調査から帰還するためには天気の変化も正確に把握し,調査の続行・中断を判断する必要があります.今春の残雪期の調査では,頂上の山小屋まであと少しとなった頃,突然あたりは雲の中となりホワイトアウト状態になり,さらに立っているのも困難なほどの強風が吹き荒れました.それまで天候は回復状態にあるように見えていたため,私のたった50年弱の登山経験では予想外のことでした.
が野外調査の出張日が近づくにつれて口数が少なくなるのは,迫り来る自然の威力との闘いに対する恐れと不安のためなのかも知れません.しかし,自然の中で科学し,その姿を知れば知るほど,人間の非力を自覚し,自然への恐れとともにその偉大さを認識させられました.この若干の自然への恐れが無謀な行動を抑制するため,現在まで無事に野外調査を遂行できているのかも知れません.
張から帰るとそのような自然の猛威とは全く関係ないかのような社会が広がっています.しかし,一端自分達が被害を被ると大騒ぎになります.人類はもっと自然の姿を理解する努力をすべきだと思います.またそれを十分に社会に啓蒙することが私たちの使命です.これらが不十分な自分を含めた現状に対して不機嫌になるのです.
(たけうち まこと)
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