環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 生物多様性と伝統的知識

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国際環境人材育成プログラム
渡邊 幹彦 特任教授
(環境経済学、開発経済学)
は、環境経済学と開発経済学の観点から、生物多様性の保全とその有効な利用を研究しています。生物多様性の研究は、大変広い分野を対象としています。その中で、私が、最近興味を持っているのは、伝統的知識というテーマです。
物多様性は、すべての動物、植物、微生物、及び生態系を包括する概念です。また、生物多様性は、資源として、我々の生活になくてはならない存在です。資源として、一番わかりやすい例は、食料でしょう。我々は、肉(動物)、野菜(植物)、ヨーグルトなど(微生物)などを食べて生きています。次にわかりやすいのが、身近にある薬草であると思われます。我々人類は、太古から、このような資源に依存して生活してきました。このような中で、伝統的知識、通称TK(Traditional Knowledge)が、最近注目を浴びています。
TK
とはどういうものでしょうか。わかりやすい例では、緑茶に関する知識がTKであると言えます。我々日本人は、緑茶を飲みます。もちろん、嗜好品としておいしいから飲むのですが、緑茶を飲むことによって、不必要な脂肪を減らして、健康的を保つ補助とすることができます。この脂肪を減らす成分は、現在は、カテキンとして広く知られています。日本人は、「おいしいから」「身近に生えている植物だから」という理由で緑茶を飲み始めたのでしょうが、なぜ、他の種類の飲み物ではなくて、緑茶なのかというと、何千年も他の植物からできる飲み物と比べて、それが、体にいいことを「伝統的に」知るに至ったからだと言えます。現代の技術を用いた科学的な分析結果を待たずして、長い間の試行錯誤を通じて伝統的な知識、TKとして、このことを知るに至ったと言えます。
間は、資源として緑茶を利用するだけではなく、自然に介入して、緑茶やそれを取り巻く生態系を最適に管理する方法を培ってきました。これは古くて新しいコモンズ論として議論されますし、最近では、里山という概念が広く知られるようになりました。これも管理手法から緑茶を見るTKと言うことができます。
の、いわば、TKである「緑茶」と現代的な科学的研究の結果である「カテキン」という成分の「邂逅」を分析することは、ユニークで知的刺激に満ちた「環境学」であると言えます。生物多様性の保全と利用に有効な方法を、このTKの観点から、今後も見守っていきたいと考える今日この頃です。
(わたなべ みきひこ)
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