環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 発展途上国のための持続可能な公衆衛生とは?

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都市環境学専攻 国際環境人材育成プログラム
ビクター シホロ ムハンディキ 特任准教授
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キスム(ケニア)におけるエコサントイレ
こ数年、私は、我々が直面している大きな課題の一つとして、途上国の公衆衛生問題に関心を抱いてきました。およそ26億人(つまり世界人口の約40%)が衛生設備を利用できない状態にあると言われています。そのほとんどが途上国に暮らす人々です。ミレニアム開発目標(MDGs)では、目標の一つとして、2015年までに衛生設備を利用できない人々を半減させることを掲げています。ここで大きな問題となるのが、この目標を達成できるのか、そしてもし達成できるとしたら、持続可能性を実現するためにどのような公衆衛生手段をとるべきなのか、という点です。
も広く普及している公衆衛生手段は、し尿を水で流し、処理後(あるいは未処理で)、水環境(河川や湖、海)へ排出するという従来型の下水システムです。下水システムは確かに便利ですが、いくつかの欠点があります。第一に、設置時に非常に高額な費用がかかるため、多くの途上国においては、海外からの援助なしで設置するのは困難です。第二に、し尿を洗い流すために、貴重な資源である水を使用するという点です。例えば、日本では一人当たり1日250リットルの水を使用しており、そのうち50リットル(20%)がトイレを流すために使用されています。水資源が限られている国々(つまり多くの途上国)にとって、20%の水をトイレに使用するのは大変な無駄であるといえます。第三に、下水は水資源の富栄養化を引き起こす栄養素(主に窒素とリン)を含んでいます。我々が地表水を利用し、飲料水用に浄化し、その水を元の水資源に下水として戻して、さらにその循環を繰り返すというのは、皮肉なことです。
来型下水システムに代わる策はないのでしょうか。現在、代替策としてエコロジカルサニテーション(エコサン)(ecological sanitation, ecosan)が普及しつつあります。エコサンシステムでは、し尿(糞便と尿)は分別され、トイレを利用する際に別々に回収されます。分別された糞便と尿は、適切に処理され、肥料として農業に活用されます。糞便と尿を分別することによって処理しやすくなり、し尿の混合により引き起こされる悪臭を防ぐことができます。また、一般的に、尿には病原体が含まれておらず、農作物に直接使用することができるのです。一方、糞便は肥料として使うために浄化しなくてはなりません。このように、エコサンは、し尿を元から分別するという原則に基づいて、汚染してしまった後に管理するのではなく、汚染を防いだ上で、浄化したし尿を農業に再利用しようという仕組みです。
題に掲げた質問に、ここで答えを出すつもりはありません。その代わりに、今日利用されている二通りの公衆衛生システムを、簡単にご紹介しました。これ以外にも、汲み取り式トイレや汚水処理タンクなど、他の公衆衛生システムもあります。ただ言えるのは、今こそ、これまでの下水システムについてもう一度真剣に考えるべきだということです。読者のみなさんが、この問題に対する答えをじっくり考える機会になれば幸いです。
(びくたー しほろ むはんでぃき)