環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

Home > 環境学と私

  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 食をめぐる人間と自然の関係

顔写真
社会環境学専攻 地理学講座講座
伊賀 聖屋 准教授
(人文地理学)
写真
ハッチェリーの内部(Lotand Salo村)
 
写真
天然稚エビの採集風景(Minanga Kae村)
ンドネシアの首都ジャカルタから飛行機で2時間少々のところに、スラウェシという島があります。島最大の都市マカッサルから車で北へしばらく行くと、そこにはインドネシアの沿岸部でよく目にする風景が広がっています。煌めく水面、網をひく青年、マングローブの木々・・・。この島では私たちがよく口にするエビの養殖が盛んにおこなわれているのです。
ビの養殖は稚エビを池に放つことから始まります。稚エビはある程度の大きさまで成長すると収穫され、市場へと出荷されてゆきます。では、そもそも稚エビはどこからやってくるのでしょうか。スラウェシの場合、その多くは、島内に複数あるハッチェリー(孵化場)という施設で生産されています(親エビは「ハワイ産」)。このハッチェリーには、「エビの交尾・産卵に適した状況」を再現可能な池が設置され、24時間体制で飼育管理がなされています。自然の状況に近い環境が屋内に整備されているわけです。もちろん、以前からこのような施設がスラウェシで存在していたわけではありません。そう遠くない昔、養殖業者らは、潮の満ち引きを利用して稚エビを池に入れたり、あるいは、漁師が海辺で採集した稚エビを池に放流したりしていました。今でもスラウェシには、天然の稚エビを採集して、養殖池に販売する人たちが僅かながら存在しています。
口にエビの養殖といっても、その担い手たちの自然への関与の仕方は様々であり、時代とともに変化してきたことがわかります。私はこれまで、グローバル経済下で生み出されるローカルレベルでの多様な空間に関する研究を行ってきましたが、このような自然に対する人々の関わり方の差異や変化も、グローバル化の進展に伴う多様な空間の生成と少なからず関係しているのではないかと考えています。そして、「社会と自然との結び目にあり、両者の相互関係が鮮明化する場」である食の領域に焦点を当てることで、何らかの示唆が得られるのではないかと思っています。
(いが まさや)
 本教員のプロフィール