す。そういうノン・エナジー・ベネフィットのところから広げていくことが今は足らなくて、社会全体での必要性だけで押していく。在りものを使った小さなイノベーションみたいなものの普及もあるといいなと思います。田中 自分たちで、これをしたから快適になったという体験があるのは、長い目で見ると、その経験をもとに次の社会がつくられていくわけで、体感教育ってすごくいいんですけど、なかなか機会がないですね。西澤脱炭素社会の構築を足元からということで、名古屋大学の話をしましょう。名古屋大学は、キャンパスマスタープランに則って施設整備を進めてきたわけですが、そこにキャンパスの脱炭素化、再エネ100%シナリオなどが合わさって、2021年頃から動き始めていますね。田中先生は、そのロードマップづくりにかかわっています。田中 2020年10月の当時首相による2050年カーボンニュートラル宣言を皮切りに、国内の多様な分野で、この目標達成に向けた取り組みが進んでいます。大学もその「知」を結集させて、この目的に貢献するため「カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション」という組織連携と情報発信のプラットフォームを2021年7月に立ち上げました。名古屋大学も、この活動に主体的に関与しています。この組織には5つのWGが置かれていますが、その1つにゼロカーボンキャンパスWGがあります。このWGでは、参加する各大学が、キャンパスのゼロカーボン化に向けた方針やロードマップ策定等を行うことを一つの目標としました。このような動きに同調し、名大キャンパスの脱炭素化や再エネ100%シナリオのプレスタディを西澤先生、丸山先生と私が施設統括部の協力を得ながら自発的にはじめました。東海国立大学機構の環境報告書2024では、名古屋大学のカーボンニュートラルのロードマップが示されましたが、これは本案が下敷きになっています。この検討をはじめた頃には、大学でカーボンニュートラルとかRE100をめざす意味は何か。やっぱり大学ならではの取り組みがないと意味がないのでは、という話をよく議論しました。例えば創エネを設備で入れるとしても、キャンパスの中で単純に空き地に太陽光発電を入れるというのは、いかがなものか。ソーラーシェアリングのように営農と組み合わせて再エネ発電設備を整備し、これを農学系の研究や教育実習と結びつけるとか、大学の演習林をCO2の吸収源として再生する実践研究や教育と絡めるとか。そういったメニューで大学キャンパスを脱炭素化する。教育研究の場である大学の特性を生かした脱炭素の方法をさぐりながら、ロードマップを作りましょうというのが、その時の大きなテーマだったと思います。西澤 例えば名古屋大学の電気をすべて再エネ電気で購入する。そういう話もあるでしょうが、それでは大学として努力したことにならない。みんなが考えて努力するところに、大学が取り組む意味があると思うのですね。丸山アメリカのUCバークレーで見たのですが、配送のためのドローンとか、建物の壁をじりじり登っていく配達用デバイスが動いているとか、キャンパスって怪しげなものがあるというのが大事だと思っていて、大学ならではの実験と脱炭素が組み合わさるといいなと思いますね。キャンパスの脱炭素化へ向けて 専門は環境社会学。持続可能な社会に移行する過程で生じる社会的摩擦や合意形成の問題を研究している。再生可能エネルギーの社会的受容性の調査研究に加えて、地方自治体の条例策定や脱炭素計画作りにも関わっている。環境学研究科では、地球規模課題4「エネルギーの確保と供給」幹事。丸山 康司 まるやま やすし06
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