HTML5 Webook
9/12

環未境来学の予測     自然災害に対する建築物や都市の安全性は、被災の教訓により発展してきました。明治以降の耐震研究は、この地域で発生した1891年濃尾地震がきっかけとなり、関東大震災を経て1924年に初めての耐震規定ができて、今年で100年になります。それ以来、多数の地震災害を経験し、基準も強化され、技術が向上する一方で、高度成長期などを経て都市や社会の状況も変化しました。1995年阪神・淡路大震災で、その時点の耐震基準を満たさない古い建物が多数被災したことが課題となり、国を挙げて耐震化が推進されましたが、29年後の能登半島地震でも同様の被害が多数ありました。また、緊急輸送道路沿いなど被災の影響が大きい建物の耐震化も急務です。住宅や民間建物に多く残る旧基準の建物を耐震化していくためには、技術の向上に加えて、建物の所有者や使用者、地域や社会の意識改革と積極的な取り組みが必須となります。また近年では災害時の機能維持が重視されています。行政や病院など災害時に活動する公的施設はもちろんですが、社会活動の高度化、複雑化に伴い、企業や住宅も含めて災害時の機能確保が必須となります。現在の耐震設計は、大地震に対して建物がある程度は変形・損傷しても安全を守る考え方ですので、被災後の継続使用は必ずしも保証されません。一方で、基準より高い耐震性を確保したり、免震建物のように地震による建物の揺れを減らす技術を用いたりすれば、安全と機能の両面を守ることも可能になっています。このような新しい技術には、多くの事例による検証と、その性能に対する社会の理解が重要と考えられます。建築物や都市の耐震性は、以上のように、自然現象の解明と予測、技術の進展と検証、社会の要求と理解などの相互作用により進歩しています。このような背景から、多様な専門分野の相互理解の場として2014年、名古屋大学東山キャンパスに減災館が建設され、減災連携研究センターや環境学研究科をはじめとする多くの研究者、地域の行政・産業界・技術者・市民などによる活動が継続しています。耐震に関しても様々な展示、教材等がありますが、一例として、地震の際の揺れを実感できる振動台は、能登半島地震の際に、地域による揺れの相違と建物被害の関係を説明するために使用されました。また減災館の建物の全体を加振する装置と観測機器を備え、免震建物と免震装置の研究開発と性能検証にも活かされています。このような場が、未来の災害に向けた拠点となると考えています。飛田 潤専門は建築構造学、地震工学。建物や地盤の地震観測を中心に、施設、都市、社会の耐震性向上と被災状況モニタリングなどに取り組んでいる。09建物や都市の耐震性向上に向けて減災連携研究センター 共創社会連携領域 飛田 潤 教授

元のページ  ../index.html#9

このブックを見る