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がつながらないと、いつまでたっても一般論でしかないわけです。森先生の分野では、災害が起こると新しい課題がどんどん見つかるのではないかと思うんですが。日本建築学会では、建物を設計する際に用いる荷重の統一的な考え方と統計的データを示す建築物荷重指針を刊行しており、1981年の初版刊行後、おおよそ10年ごとに改定しています。2014年に関東地方で大雪が2度ありました。その後気温が上昇し雨になって、屋根に積もった雪に雨が溜まって大屋根がいくつか落ちたんです。それまで雪の荷重は雪の深さから算定していましたが、現在改定中の荷重指針では降雪時の降水量で評価することにしています。同様に大きな津波被害があった東日本大震災を受けて、2015年の改定時には新しく「津波荷重」が入り、今回の改定では「洪水の荷重」、「火山灰の荷重」も含めましょうと、いろんな災害を念頭に改定しています。建物の安全性確保のために、常に新しい要因を考えていくことは、一つの進歩だと思っています。田所 短期的にいつ地震が起こるかなんていう確実な地震予知はできないので、かつては「情報は出せません」と言うしかなかった。でも阪神・淡路大震災以降、長期的な見通しであってもなるべくわかっていることは情報として出した方がいいということもあって、断層の調査をして、地震の発生確率を出して、全国の揺れの予測を出すようになりました。「30年以内に何%の確率で震度6弱以上」といった予測です。確率を出せばわかってもらえると思っていた。活断層では30年以内に数パーセントって、地震発生確率としては非常に高い。でも理系の視点しかなかったのか、一般の方の理解が追いつかないところがあって。情報を出す側の、うまい伝え方がないといけないなと思います。だからと言って、やめることはないんです。知っている情報は出していく。ただ最新の情報でも完璧ではない。科学は完璧ではないのでね。それでも情報を出していく。そして情報を更新していく。更新される情報は信用できないって言われるかもしれませんが、そうじゃない。更新するから信じられるんです。新しいことがわかれば変わる。そうやって一般の人の認識も変わっていくといいと思いますね。それこそ安全ということについて、福島もそうでした。原子力発電所は安全ですと「安全宣言」をしてしまったから、今更何も変えられないっていうジレンマに陥ってしまった。新しいことがわかってくれば変わるんです。その変える勇気を、行政も私たちも持たなくてはいけない。変えることは何も悪いことではない、ということですね。環境学としての災害研究に取り組む場合、先生方の中で、自然災害と環境問題の関係をどう整理されていますか。災害の研究と環境、やっぱり関連付けた方がいいと思います。災害は突発性があるので独自の観点や対策は必要になるんだけれども、他方では、長期的な気候の変動が災害の発生にいろいろな形で影響を及ぼすようになってきていて、そうした状況に対応できていないのが現状です。だから、それを関連付けるような観点は考えていきたい。環境学研究科は、そういう研究を進める上で非常に恵まれた環境があると思っています。人間の身の回りに関わることすべてが環境なので、自然災害も環境問題の一つと言えると思うんです。地震で被害を受けるか、田所 山崎室井 田所 山崎 森森自然と対峙せず、問題を解決しながら暮らし続けていく室井 研二 むろい けんじ専門は社会学。社会学の観点からハザードが災害に転化するプロセスや仕組みについて研究している。著書に『都市化と災害─とある集中豪雨災害の社会学的モノグラフ』(大学教育出版、2011年)など。06

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