山崎室井田所山崎室井山崎山崎田所 私は、今、お話があった阪神・淡路大震災を経験しました。ちょうど大学を卒業する前でした。そもそも小さい頃から地球とか宇宙が好きで、そういうことを研究する科学者になりたいと思っていました。そうした中で、地震を経験し、自分の大好きだった街が潰れ、遊んでいた場所がなくなってしまったり、被災した人を見ると、研究が人の役に立てばいいなという思いもあって、地震を引き起こす断層、特にその構造などに興味を持ち始めたんですね。それで、学生の頃から断層の構造を地震波を使って調べる研究をしていました。名大に来てからは、まさに南海トラフ地震の被害想定地域にいるわけですから、今どういうふうに歪みが溜まっているのかについて、観測装置を作るところから始めて、今では実際に海での地殻変動を観測しています。災害の調査や研究をする上でどんなことを重視されていますか。田所先生や森先生ですと、それぞれの専門知識で専門的なアプローチをされると思うんですが、社会科学系は、むしろ現場から学ぶというところがあります。災害は、それが立ち現われる時、ハザードの影響だけでなく、その地域の産業、開発の歴史、人々の属性などが複雑に関わってくるので。ただし被災者に聞いたことそのままでは研究にならないので、それをもっと広い社会的な脈絡の中で捉え直して、災害の原因の解明や対策について、貢献することができればと思っています。森 私の専門は建築構造なので、やはり壊れた原因を追究します。ただ、なぜそのような被害が起こったかというところを共通の視点で見る一方で、現行の耐震基準を満たさない古い建物について、自身の研究成果に基づいて簡易耐震改修への補助金制度を提案するなど耐震改修を促進する活動をしています。神戸の震災でも古い建物の被害が多くありました。なかなか力及ばず、古い建物はまだ残っている状況です。地震学と災害軽減との関係で言うと、地震の仕組みを理解し、それを予測に生かし、災害の軽減に生かすといった流れで研究しているのですが、じゃあ地震の仕組みがわかったら本当に人を助けられるのかっていうのは、ジレンマがあるところです。結局、人を助けるって、自然のことだけわかっていてもだめで、工学、社会学など幅広い分野の方と連携していくのが大事だと感じています。室井先生は、現地で幅広い分野の知見が必要だと感じるときはありますか。例えば漁村集落などは割と同族的なつながりがあるので、人はその土地に残るんです。だから時間をかけて議論をしやすい。都市的な地域だと、そうはいかないですよね。ただし地域の人だけだと何ともならない場合が多い。例えば、防潮堤の建設も、行政の建設計画に異論があっても、住民だけでは具体的な代替案が出せない。そういう現実的な防災の貢献については、理系の人が関わらないとうまくいかない。復興にあたって地域と大学とのつながりは、まだまだ薄い。そういう点では環境学研究科には、ポテンシャルはあると思いますが、まだ力を発揮しているとは言えないですね。私も沖縄や奄美でサンゴ礁の調査をしますが、人々が浜に降りる風習がたくさんあるんです。それが今は堤防でブロックされて、行政の人に重い鉄の扉の鍵を開けてもらわないと浜に行けない。これが本当に必要なの?もう少し柔軟でもいいのではという思いがあります。今年1月に起こった能登半投げかけた課題能登半島地震が森 保宏 もり やすひろ専門は建築構造、信頼性工学、リスク論。構造性能を定量的に取り扱う設計体系の構築を目指す。ISOの構造設計の基本に関する規格群の開発にも携わる。著書に『事例に学ぶ建築リスク入門』(共著・日本建築学会編、技報堂出版、2007年)など。04
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