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私たちはこの大地について日頃は何も感じることなく過ごしているが、古来の人々は自然の中での経験に基づいて、最良の生活場所や生活様式を築いてきた。現在、多くの人間が生活している平野は広く平らな地形をしており、社会活動がしやすい。しかし、その平らな地形は、河川の洪水・氾濫が広範囲に繰り返し、まんべんなく堆積物が堆積して形成されたものである。現在は堤防が築かれ、一見、安全なようにみえるが、堤防が決壊すれば、広範囲に浸水することを知っていなくてはならない。古来の人々は経験的に浸水域を理解しており、自然堤防や河岸段丘などのより高い標高の土地に生活の拠点を構えた。しかしながら、近代では、人口密集が進み、そのような災害の危険性を検証せずに宅地開発などが進んでいる。当然、土石流の危険性がある沢の下流部にも宅地開発がなされ、被害が多発している。人類は自然の中で活動していることを忘れてしまったのだろうか。     現在見られる地形はその下にある地質に大きく関係している。地盤を形成する岩石の浸食や風化に対する抵抗性の程度、地殻変動による断層や褶曲の形成などが大きく関与している。環境学研究科が推進する課題の一つとして、私と都市環境学専攻の堀田典裕准教授が担当する「てくてくテクトニクス」と題する課題がある。これは地形・地質と建築物・社会活動の関連性を考えるもので、実際に野外を歩き、観察しながら、両者の関係について考えようというものである。2021年度は岐阜県各務原市の木曽川河畔にて、硬い赤色チャート層が織りなす地形や風景と、そこで居を構え、活動した鳥瞰図師の吉田初三郎と日本初の女優川上貞奴に関する建築物を見学するツアーを開催した。これまで、それぞれの分野のみで研究がなされてきたが、このような観点で見直してみると密接な関係があることがわかる。今一度、自然を見直し、人類活動に還元する必要性を感じる。地球の地質現象は人類の歴史以上に長い時間を要するものが多い。数万年、数億年ととてつもない長い時間での今後の地球活動がどのようになるのかは、地球が過去に起こした現象から学ぶことができる。その情報は地質に記録されているので、その情報を理解することにより、今後長期の未来予測も可能である。人類社会が安心して継続できるために、地質学独自の見地からの社会貢献を積極的に行う時期が来ている。地球・都市・社会3つの視点で「これから」を考えます。未来予測環境学の竹内 誠博士(理学)。専門は地質学。北アルプスや紀伊半島を中心として地質調査を行い、地層や岩石中の鉱物の年代測定を通して、造山帯の地質構造発達の研究を行っている。現在、産業技術総合研究所特定フェロー兼務。VOL.30地質に学ぶ地球の未来地球環境科学専攻 地質・地球生物学講座 竹内 誠 教授

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