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たものに微生物を付けて土壌化する技術の研究をしています。非常に軽い土壌ができて、今、錦二丁目のビルの屋上でそれを使って野菜を作り、そのビルにある喫茶店でサラダにして出すという取り組みが始まっているんです。もう一つはソフト面で、やはり都市の価値は賑わいだと思うんです。たくさんの人が集まって賑わう、それが都市の魅力。田舎に来る若い人たちに聞くと、都市にたくさん人がいるけど寂しい、つながりがないって言う。田舎はつながりが非常に濃い。それがうれしいって。実は人がたくさんいるだけでは賑わいは生まれなくて、人と人との関係を構築していくことだと思うんです。『逝きし世の面影』という、江戸時代末期から明治にかけて日本に来た外国人が庶民の暮らしを記録した本があって、その中に長屋の風景があるんです。早朝仕事に出かける前に、お父さんたちが表でそれぞれに子どもを抱いて喋っている。その光景がすごく好きで、そういう空間が都市でつくれたら賑わいのある都市ということになるんだろうなと思っています。孤独な人がいっぱいいる。つまりコミュニケーションができていない。一方で今はサイバー空間でコミュニケー都市にはたくさん人がいるけどションができる。そうであれば田舎も都会も、場所は関係なくなる。都市は、コミュニケーションとしての場というよりも、何か供給される、ものとしての場になっていくのでしょうか。そういう時代に都市は何を提供していかなければならないのか。中田先生から見ると今までの話はどう思われますか。一つ、付け値地代関数という考え方があって、土地の収益性を考えた時に、農業でその土地を使った時の収益率みたいなものを一定だとすると、都心から離れるごとに、その地代関数が下がって農業収益率とイコールになったところが都市と農村の境界みたいな話、都市がどのぐらいの大きさになるのかっていうのは都市の価値がどのぐらいなのかに依存する。そういう話が一つのスタンダードとしてあると思います。ただその関数が、都市が生み出すさまざまなコミュニケーションや芸術性といったことまで評価できるものかどうか。そういうのを何とか計測しようとがんばっている実証の方もいらっしゃるんだと思いますが。日本では都市化が進展した時代に、同時に団塊の世代の需要もあって、郊外に団地をどんどんつくりました。その段階ではすごくうまくいった。外国のように都市に流入する人口に対応しきれずスラム化することもなかった。でも、今がんばってつくった団地が朽ちていく状況にあるわけです。これも大きな課題だと思います。よね。今年、修士の学生さんに東浦町の郊外住宅団地の研究をしてもらっています。東浦町では意外にちゃんと住民が入れ替わっているんです。第一世代がいなくなり子ども世代が入ってきて、孫世代が増えている。何が良くて入ってきたかアンケート調査をしたのですが、実家が団地の中にある人が多い。つまりUターンです。そこで生まれ育った人が、両親とは別の住宅を買って住む。近居ですね。子ども時代にそこで育ったことのいい思い出があるんでしょう。そういうことが大事なんだと思いました。ただ、もっと都心から離れた団地は厳しい。どんどん空き家が増えていると思います。ない距離ですね。一つのポイントなのかな。災害時にも助け合える。何かあったときに子どもの面倒を見てもら郊外住宅団地が一番難しいですなるほど、近居。スープの冷めえると。コロナ禍の今は身近に感じる話ですね。そこはSNSやリモートではなかなかできない、まさに助け合いですね。さっき長屋の話が出ましたが、実は私、高校卒業まで長屋に住んでいたんです。遠慮がないというか、人とのかかわりが濃いところで生まれ育って、そういうの好きじゃなかったんですが、これからはちょっと見直される時代になるのかなと。リモートなどでコミュニケーションした気になっているんだけど、リアルな移動やコミュニケーションが、電線とか電波を通じてのコミュニケーションに完全に置き換わったら、都市や社会はどうなるのだろう。まさに都市のリボーンへとつながるのだろうか。そんなことを思った加藤中田加藤高野加藤加藤新しいベクトル都市に生まれる 中田 実 なかだ みのる博士(経済学)。ロンドン大学大学院、京都大学大学院などを経て現職。専門は環境経済学。環境と経済成長、エネルギー市場・技術、所得格差と居住地、ロビー活動との関係を分析。環境と移住との関係にも関心がある。

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