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まして、さらに深掘りできそうな気がします。お聞きしていて思ったのは、シーズとニーズ。廃校も空き家も今はニーズがなくなってきているものについて、新しい形を定義したり、今までとは違うニーズが違う担い手から出てきたり。縮小に向かう社会において、今までとは違うものを用意していく。まさにそれが問われているのだと思いました。今までの都市の在り方として、集中することによりさまざまなメリットを生んできたわけですが、逆に環境問題も出てきた。都市を対象に研究する者にとって悩ましいところですが、都市はどういうふうに変わっていけばいいとお考えですか。えています。人間を守るためのシェルターである建築は、今や社会的な分断を後押しするようなシェルターにもなっているし、感染症にも対応しづらい人工環境になっています。建築は都市が成長する時代には大きな貢献をしましたが、50年という時間が経過して都市が朽ち始め、それが具体的な問題非常に広く深いお話をいただき今、都市はさまざまな問題を抱として表れてきたのが現在です。しかし、かつての産業廃棄物を今「都市鉱山」って言ったりしますよね。空き家だって見方が変われば資源になるのではと思うんです。つまり不動産として売買の観点から見る限り空き家は「負」動産。でも、空き家から基本的に家賃は取らない、固定資産税と共益費だけ払ってもらう。維持できる分だけを払ってもらえば使い方は自由で、住まなくてもいい。いわば「家守」という考え方を導入している例がドイツにあります。こうなると、若い人でも書斎を持ったり、スタジオとして使ったりできます。離れのような「付」動産、かな。でも、途端に「負」動産の見え方が変わりますよね。また、今までの話を聴いていて、廃校とか空き家とかの言葉が持つイメージを変えないといけないと思いました。私にはあまりネガティブなイメージがなく、ある建築が一つの役割を終えたという見方をしていますが、新たな用語が必要かも。また、建築は恒久利用を考えがちです。野球に例えると、先発完投型でしょうか。一方、期限付きとか暫定利用という、使い手が時限的に入れ替わっていく継投型も、これからの一つの姿ではないか。その入れ替わり方に知恵を絞る。どんどん変わっていける社会的仕組みと、それがしやすい建築を用意することができたらと思います。建築は、成長・開発時代のような存在にはならないでしょうが、これからも必ず必要な存在であり、プレイヤーです。なぜなら建築なしでは生活できませんから。であれば、この時代にどう貢献していくか。いかに自覚的に取り組むか。実は面白いことはいっぱいあると思っています。新しい社会がどういうものかについて、なかなか言語化できないのが苦し考え方を変える、その先にあるいところで、とりあえずいろいろ取り組んで形を出していこうと、私自身は思っています。どちらにしても、今までの成長のパラダイムとは全く違う方向へ行くようにするにはどうしたらいいのか。ここにいる4人は考えているのかなと思いました。高野先生は田舎から見るとどう見えますか。土地利用の観点から言うと、名古屋市の「都市計画マスタープラン2030」の中にある「駅そば生活圏」という構想は非常にいいと思っています。鉄道の駅の周りにコンパクトに暮らしていこうと。じゃあ駅と駅の間はどうするか。私はまたそこを田舎に戻していく、農地にしたり森林にしたり水辺の生態系にしたり、といったイメージを持っています。駅の周辺にまとまりつつ、都市と農村が混在するような、全体としては都市なんだけど、その中に農村的なものが面的にある。そういう複合的な土地利用ができたらいい。農業は都市でやろうよっていう話です。私の研究室でもビルの屋上で有機農業をする研究を始めていて「籾殻くん炭」という、籾殻を炭にし高野 加藤小松 加藤見方を変えて知恵を絞るあるか都市に本当の賑わいは   小松 尚 こまつ ひさし博士(工学)。一級建築士。専門は建築計画。主に公共建築を研究。近著として、小篠隆生・小松尚『「地区の家」と「屋根のある広場」イタリア発・公共建築のつくりかた』(鹿島出版会 2018:2021年日本建築学会著作賞)。

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