環未境来学の予測 我々の生活と産業を支えている石油、石炭などの資源の枯渇に伴い、これらの資源を原料とするマテリアルの生産をはじめ、資源利用のあり方自体を見直すことが迫られている。化石資源の利用が急速に増大した結果は、資源枯渇だけでなく、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出、プラスチックごみによる海洋汚染など深刻な環境問題が発生している。枯渇性資源の問題を解決するため、化石資源に由来するマテリアルのリサイクルに加えて、化石資源の代わりにバイオマスの利用は持続可能なソリューションとして注目を集めている。従来、バイオマスは燃焼によるエネルギー資源として利用されていたが、今はさまざまな分野においてバイオベース材料の資源としての利用が可能になり、バイオマスから新しい材料の生産が広まっている。例えば、森林資源から製造されるセルロースナノファイバー(CNF)は鋼鉄の1/5の軽さで5倍の強度の特性を有しており、自動車部材、情報電子材料、包装材料、建築材料などの多くの用途に汎用的に採用されている。プラスチックの代替物になれるバイオマスベース材料は活発に開発されており、プラスチックゴミの問題を解決できることも期待されている。バイオマスは再生可能な資源と言われても、無限ではない。化石資源のように急速に使用量が増加すると食糧問題を引き起こしたり、バイオベース材料の生産により自然環境を破壊させたりするなど懸念がある。むしろ、未利用のバイオマスや廃棄物から取り出したバイオマスからマテリアルを製造するような資源利用は持続可能なシナリオの一つであり、ゴミ問題解決にも貢献できる手法である。筆者の研究グループは、産業廃棄物のカニとエビの殻に含まれているキチン、魚の白子から抽出される核酸(DNA)などのバイオマス資源に着目して、吸着分離剤、補強材など機能性材料を作製しており、これらのバイオベースマテリアルの応用性を検討している。これから筆者は、バイオマスの資源としてサステイナブルな利用を一層重視して、人と環境との調和に配慮したバイオベース材料の多様性を広げることに貢献したいと望んでいる。ジンチェンコ アナトーリモスクワ大学卒業、名古屋大学環境学研究科修了。専門は高分子科学、特に天然高分子。天然高分子を中心とした材料科学、物理化学、生物物理学など学際的な視点から、化学物質が関わっている環境問題について研究を進めている。バイオマス由来の材料氷河の行く末を予測する都市環境学専攻 環境機能物質学講座 ジンチェンコ アナトーリ 准教授地球環境科学専攻 気候科学講座 藤田 耕史 教授
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