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(CCS)が挙げられる。これらは、近地球環境と地球科学との境界問題の例として、原子力発電によって生じる高レベル放射性廃棄物の地下処分(地層処分)や、二酸化炭素の地下貯留年の人間活動に伴うエネルギー消費の代償とも言えるかもしれないが、現世代で生じたものは現世代で対応する(将来の世代に先送りしない)、というのがOECD/NEAでの議論をはじめ国際的なコンセンサスとなっている。これらの課題に対処する技術として共通することは、地下数百メートルよりも深い地質環境に数百年〜数万年以上に渡って隔離し、自然環境に委ねるということである。要は、放射性廃棄物は放射性元素の放射能が半減期によって減衰するまでの期間、また二酸化炭素においては温暖化の進行を氷河期の到来等で抑制させられるまでの期間、地球表層での物質循環システムから隔離することを目的とする。地下環境にこれらを隔離するためには、地下に埋設あるいは注入した後に、アクセスした孔(立坑やボーリング孔)の長期シーリングが不可欠となる。コンクリートも重要なシーリング素材の1つではあるものの、現時点では数千年以上もの耐久性を求めることは難しい。一方で、自然界には数千万年〜数億年以上に渡って物質の状態を保持しているものがある。球状コンクリーションである。球状コンクリーションは、炭酸カルシウム(カルサイ岩塊であり、直径1メートルサイズでも数年ほどで形成されることがわかってきた。コンクリーション中の物質(化石)が保存良好なのは、急速に沈殿したカルサイトが堆積物の細かい隙間を充填・シーリングし、外部との化学反応を遮断するためである。このシーリングプロセスは、地層処分や二酸化炭素貯留のみならず、地下トンネルなどのコンクリート構造物の修復や、石油掘削及びLPG備蓄等地下空間利用に伴うボーリング孔の、長期シーリングといった工学技術にも応用可能CaCO3)を主成分とする球状体ののはずである。地層処分は、最終的には数万年以上もの隔離を目指している。このアイデアも、元はと言えばアフリカ・ガボン共和国のウラン鉱床中から発見された約20億年前のオクロ天然原子炉(自然現象:ナチュラルアナログ)に学んだものである。人間活動の影響も含めた地球環境の様々な変化において、長期のレジリエンスを獲得するためには、これからも自然の仕組みに学び、自然と調和する技術がさらに重要になると考えている。地球・都市・社会3つの視点で「これから」を考えます。今回のテーマは 地球環境問題へのアプローチ未来予測環境学の   ト: 吉田 英一専門は応用地質学。岩石・鉱物の風化や変質などの地球科学的現象から、工学的技術への応用・展開に関する研究を行っている。VOL.28球状コンクリーションに学ぶ名古屋大学博物館 吉田 英一 教授

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