環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 地球上のさまざまな繋がりを映し出す同位体

顔写真
地球環境科学専攻 地球化学講座
淺原 良浩 助教
(同位体地球化学)
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イラン北西部ザグロス造山帯の調査地にて
の専門は同位体地球化学です。現在、イランのザグロス山脈に登って、数1000万年前〜数億年前の火成岩を採集し、太平洋や北極海などの海底の泥や海水中の粒子を集め、分析をしています。分析しているものは同位体です。例えば、ストロンチウムという元素には質量数84、86、87、88の4種類の同位体が天然に存在していますが、この同位体存在度の微妙な違いを、地球の様々な物質の起源を探ることに利用しています。
グロス山脈の火成岩のストロンチウムやネオジムの同位体分析からは、時代とともにマグマのタイプ(起源)が変化してきたことが明らかになり、イランプレート下へのアラビアプレートの沈み込みとそれに続くプレート衝突の過程で起こった火成活動の変化が見えてきています。このプレート運動や火成活動は、イランやその周辺域の油田や金属・非金属鉱床の生成にも密接に関係しており、過去の造山運動の解明が資源探査にもいろんなヒントを与えてくれます。
太平洋ハワイ周辺の深海泥のストロンチウム同位体分析からは、その泥のほとんどがアジア大陸の内陸部から風によって運ばれてきた黄砂であること、また、過去100万年間、特に寒冷期により多くの黄砂が運ばれていたことが見えています。オホーツク海の鉄の同位体分析からは、東シベリアのアムール川流域の湿地帯から溶け出した鉄がオホーツク海を経由して西部北太平洋の親潮域まで運ばれていることが明らかになりつつあります。鉄は、窒素、燐、珪素の栄養塩とともに海洋の基礎生産者である植物プランクトンの成長に不可欠な元素ですが、遠く離れた陸の湿地帯の鉄が親潮域の豊かな水産資源を支えていることは確かなようです。
球上の様々な事象の繋がりを映し出す同位体。今後も新たな同位体の指標を確立し、様々な対象物に適用しながら、地球や環境の変化の背後にある繋がりを探り続けたいと思います。
(あさはら よしひろ)
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