環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 草の戸も住み替る代ぞ雛の家

顔写真
都市環境学専攻 建築・環境デザイン講座
高取 千佳 助教
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住民ワークショップ
蕉は奥の細道の冒頭で庵を雛の家と対比して、庵のわびしさを浮かび上がらせ、旅立ちの心を見事に表現しましたが、過去の記憶である草の戸と未来の記憶である雛の家の交差はランドスケープの姿を表しているともいえるでしょう。都市計画・ランドスケープデザインは、その土地・人々が持つ過去の記憶、現在の記憶、そして未来の記憶が交差する場に生まれます。最近の都市計画では、デザイナーが最初から青写真を描くのではなく、地元の方々との対話を通して、町の姿を描いていく手法が重視されています。例えば、各務原市での河跡湖を再生する公園プロジェクトでは、地元でのワークショップで住民の方から「先祖が作った堤防があるから残してほしい」といった話を聞きました。このような土地に蓄積された記憶をひとつひとつ丁寧に拾い上げ、提案に反映させました。このように、デザインは、意識下に隠れている固有の記憶(美しい故郷の風景、水辺や街道、痛ましい災害の歴史、土地の住み心地良さなど)をいかに具現化し、未来の記憶として現在に刻していくか、という作業工程ともいえると思います。
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明治16年        平成18年 超高層

高度70m鉛直風速の変化(南東風/10分間平均値)
くまでも、その作業工程は、さまざまな分野の人々のチーム作業による正確な科学的検証に基づく必要があります。私の研究では、これまで江戸・明治期の古地図より一戸ずつの建物や緑地をコンピュータ上で再現し、現代までに地形上でどのように変化したかを解明しました。さらに、気象の専門家の方々との共同研究において、スーパーコンピュータを用いて数値シミュレーションを行い、広域から街区スケールまで、風や熱がどう変化したのかの検証を行いました。その結果、地形に応じた微細な緑地の存続が今でも気温低減効果を持つこと、超高層建築群と皇居や不忍池等の緑地の配置等により大規模な下降流が生じ上空の冷気を地表にもたらすことなどが見えてきました。情報が莫大になる現代では、これまで目に見えてこなかった複雑な現象に対して、チームでどのように理解し、計画へと展開するのか、その手法が課題となると思います。つまり、研究とデザインは、車の両輪です。
古屋大学に赴任してからは、中部大都市圏における地形上での緑地の機能や変化、災害との関係や管理の実態を読み取ることから、将来の環境計画について考える研究に携わらせて頂いています。また、実際のフィールドを対象に、住民の方々や多様な専門分野の先生方とご一緒に、地域の課題に取り組ませて頂いています。過去から現在、そして未来に対して、どのように安全性と住み心地良さを両立した将来像が描けるのか、取り組んでまいりたいと思います。
(たかとり ちか)
 本教員のプロフィール