環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 現場の学問

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社会環境学専攻 社会学講座
室井 研二 准教授
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香川県豊島の港にある立て看板
の専門は社会学です。社会学は科学であると同時に現場性が重視される学問です。現場性というのは、社会調査という方法を用いて現実社会に介入すること、そのことから生みだされる示唆や知見、アクチュアリティといったことです。しかし、自分にとっての現場がどこなのかを見出すのは結構難しい。
日本大震災が発生したとき、私は香川県に住んでいました。連日メディアが伝える衝撃的な報道を前に、いやでも事態の深刻さを思い知らされずにはいられません。しかし香川に住んでいた私には、東北で起きた出来事にはいろいろな意味で距離がありました。メディアを通して知る被災地の惨状とは裏腹に、香川ではそれ以前と何ら変わらぬ穏やかな日常が続いており、そのギャップをどう受け止めてよいものか、悶々とした日々を送りました。一度現地でボランティアでも、と考えたりもしましたが、性格があまり素直でなく旅費負担にも尻込みしてしまう小市民的な私には、嘘くさく思えて踏み切れませんでした。被災地の調査研究にしても、土地勘が全くない私が役立ちそうには思えません。今回の震災の教訓を、「非」被災地の立場から活かせるような研究ができないものか。私に重くのしかかってきたのはその問いでした。災害から2年経って、今後同様の震災(南海トラフ巨大地震)が予測される地域に目が向くようになりました。私にとっての「現場」がようやく見つかったような気持ちになっている昨今です。
川にいた頃、豊島という離島の調査をしていました。有害産業廃棄物不法投棄事件で有名になった島です。その島の住民から聞いた言葉が今でも耳にこびりついています。「学者さんは豊島のことを学界や国内外に発信することには熱心だが、島には何も発信してくれない」といった声です。当事者でも政治家でもなく、一介の研究者にすぎない自分にとって、現場に資する研究とはどのようなものなのだろうか。自問自答が続く日々です。
(むろい けんじ)
 本教員のプロフィール