環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 積乱雲の数値シミュレーション

顔写真
地球環境科学専攻 地球水循環科学講座
篠田 太郎 准教授
(気象学)
写真
CReSSを用いて水平解像度2 kmで実施している毎日のシミュレーション実験の結果の例。2013年9月14日21時(日本標準時)を初期値として計算を始め、28時間後の9月16日1時の地上降水の分布(色)、地上風(矢羽根)、地上気圧(コンタ)を示します。台風T1318号の接近に伴って、紀伊半島南東斜面や京都府北部などで強い降水が再現されています。
 
学4年生の時に、研究室のセミナーで論文紹介の担当に当たり、読むべき論文を探していた際に、計算機の中で積乱雲の中の雨や風の分布を再現できることを知って興味を持ちました。計算機という箱庭の中で積乱雲を育てることは、ドラえもんの漫画で読んだことのある「台風のフー子」の話みたいだなと思ったためです。
算機の中で積乱雲を再現するためには、数値モデルを使います。数値モデルの中では、空気や水(水蒸気・水・氷の3形態)の質量保存・運動量保存・エネルギー保存などの物理法則に応じて式を連立させて解きます。地球水循環研究センターでは純国産の積乱雲を表現できる気象モデルCloud Resolving Storm Simulator(CReSS:クレスと読みます)を開発しています。最近では、シミュレーションの技術や計算機の発達によって、私たちの研究室でも日本全域を含む領域で水平解像度2kmという高解像度で毎日の気象シミュレーションの実験を行えるようになっています。
の様に実施されるシミュレーション実験の結果は、あくまでも仮想世界での出来事であり、現実世界の観測結果との比較・検証は不可欠です。観測結果とシミュレーション結果を比較することで、豪雨・豪雪・突風などが発生する時の気象状況や再現性を確認できます。もちろん、シミュレーション実験はいつも成功する訳ではありません。しばしば結果を見てがっかりすることもあります。しかしながら、実験が失敗した原因を検討することで、次の研究課題の特定に繋がることもありますので、気を落としている暇はありません。
近では、CReSSと海洋モデルを結合させて台風が海洋に与える影響の検討や、土地利用や土壌水分量をより精緻に取り込んだ陸面モデルとの結合モデルの開発を行っています。また、エアロゾルと雲との相互作用を取り込むことも計画しています。さらに、CReSSで出力される地上の日射量や気温、降水量を介して主要穀物の生長予測モデルとの結合も試してみようとしています。これからも、気象モデルを道具として、様々な分野の方との研究交流を図っていきたいと考えています。
(しのだ たろう)
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