環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

Home > 環境学と私

  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 脳から学ぶ

顔写真
社会環境学専攻 心理学講座
田邊 宏樹 准教授
写真
近コンピュータ将棋ソフトが現役プロ棋士に勝ったと話題となっていますが、対戦中コンピュータと棋士の脳はどのくらいのエネルギーを使っていたでしょうか?最近はコンピュータの消費電力も減ってきていますが、それでも膨大なエネルギーを使いしかも限られたことしか出来ません。対してヒトの脳はものを考えている時たかだか1ワット程度のエネルギーしか消費していないとの試算があります。脳は超省エネシステムなのです。
はどうして脳はあまりエネルギーを使わず現在のコンピュータにはできない仕事が出来るのでしょうか?その1つの鍵は脳の自発活動にあるのではないかと言われています。少し前まで、私たちの脳は意識的な仕事をしているときに沢山エネルギーを使い、そうでない時には脳も休んでいると考えられていました。ところが近年の脳機能イメージング研究等により、実際にぼんやりしている時も脳は活動をしており、さらに驚くことに、脳が消費するエネルギーのほとんどはこの一見何もしていない状態で使われていることが分かりました(逆に特定の課題を行うのに必要な脳のエネルギーは何もしていないときの脳活動に使われているエネルギーのたった5%程度です)。この脳の「基底状態」の活動にはさまざまな階層がありますが、私が研究に使っている磁気共鳴装置(MRI)でみられるものは「安静時脳活動」と呼ばれ、その機能について活発に研究が行われるようになってきました。
の脳の基底状態の神経活動は、幾つかの脳部位が活動のゆらぎを同調させてネットワークを作っているという特徴を持ちます(図を参照)。そして最近ではこの「ゆらぎ」が、絶えず外部環境を予測したり色々に解釈したり、そこから新たなものを創発したり、さらには人の心と心を繋いだりするのに重要な役割を果たしていると考えられるようになってきました。この先研究が進み、このような脳の働きのメカニズムが解明されてくれば、ヒトの心的過程の実体をより深く理解できるだけでなく、省エネで環境に優しい情報処理システムを作ることができるのではないかと期待されています。
(たなべ ひろき)
 本教員のプロフィール