環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 小さな岩の上にて

顔写真
地球環境科学専攻 地球惑星ダイナミクス講座
田所 敬一 准教授
ま、銭洲という伊豆半島のはるか南方に浮かぶ小さな岩の上に寝転がりながら、この文章を書いています。周りには大海原海が広がっているのみで、岩に打ちつけるゴゴーという波の音しか聞こえません。もちろん、携帯もネットも通じません。日陰もありません。「暑い、暑い」と、言ったところで埒が明かぬ言葉をただ発するのみです。ここ銭洲は、釣りをする人にとっては憧れの地だそうですが、残念ながら私は釣りをやる趣味がありません。
のに、どうして私がこんな過酷な環境の場所に来ているかというと、それは、GPSでこの場所の動き(地殻変動)を測るためです。銭州は、フィリピン海プレートとよばれる固い岩板の上に突き出た岩です。フィリピン海プレートは、日本列島を乗せたプレートの下に沈み込んでいます。このプレートの沈み込みのせいで起こるのが、最近よく耳にする東海・東南海・南海といった巨大地震なのです。フィリピン海プレートには伊豆半島以外に大きな陸地がありませんから、銭洲での地殻変動データは、これらの巨大地震の研究にとって大変重要なのです。銭洲は海が荒れると波に洗われるような小さな岩ですから、機材を定常的に設置しておくわけにはいきません。そういう理由で、毎年1回、海況を見計らっては地殻変動の測定に来ています。
れまでの観測結果を振り返ってみると、銭洲は、年々、ちょうど愛知の方に向かって動いています。つまりそれは、フィリピン海プレートが日本列島に向かって押し寄せて来ており、巨大地震発生のエネルギーが着実に貯まってきていることを意味しています。“その時”は静かに近づいているのです。そういえば、8月11日の早朝、東海地震が起こるとされている駿河湾で地震が発生しました。名古屋ではそんなに大きく揺れませんでしたが、巨大地震“本番”の揺れは、あんなものでは済みません。あの地震をきっかけにして、もう一度、自分たちの周辺の地震環境や地震対策を見直さないといけませんね。名古屋から遠く離れた小さな岩の上で、そんなことを思っています。
(たどころ けいいち)
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