環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

Home > 環境学と私

  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 頭無しマイク

English Version
Wallis_s.jpg
地質・地球生物学講座
准教授 ウォリス・サイモン

「頭
無しマイク」という鶏の話を初めて聞いたとき、私はかなり疑っていた。その鶏は18ヶ月、頭無しの状態で生きていたという情報を聞いたときはさらに懐疑的になった。ただし、調べてみたら、この信じられない、常識はずれのできことにも科学的な説明が存在するらしい。
「首なし鶏マイク」ウィキペディア
イクの話に比べれば,私が調べている現象はまだ信じてもらえると思いたいのですが,日常的な常識からは少し離れた話かもしれません。岩石は固く、固体のもので,強くたたけば割るが、曲がったり、流動したりすることはありません。長い間,頭無し鳥が生きることができないと信じられていたように,多くの科学者も,地球内部の岩石を固体であると考えていました。その根拠として地震波の伝わり方を挙げられます。地震波の中でもS-波はP-波よりも遅く伝搬し、液体を通過しません。但し,S-波は地表から地下3,000kmの深さまでは全部伝搬しますので、少なくとも地表から3,000kmの深さまではほぼ全部固体と推測されます。
く練った計画でも、弱点があることは少なくありません。地球は固体であるという説にも大きな脆弱性が隠されていました。その弱点は「時間のスケール」にあります。地球科学が扱う長時間スケール、また地球内部で存在する高圧、高温の条件では、岩石は固体ではなく、流体として振る舞います。そして、岩石はコーヒー、油、トロロなどの流体と同様な面白い挙動を示します。
石の流動の証拠は,地殻変動によって隆起した山脈で観察できます。褶曲はその顕著な例です。かつてまっすぐだった地層は割れずに複雑に折り畳まれていることはしばしば見られます。この変形は一種の流動です。他にも、より身近な流動する固体もあります。一番分かりやすい例の一つは氷でしょう。氷河は氷からなる川ですが、これらの「固体の河川」は重力の影響で流れ、水を必要としません。ただし、同様な水の固まりを机の上において、ハンマーでたたくと確かに無数の破片に割れてしまいます。氷は固体ですが、流体でもあります。氷の性質を決定するのは時間です。「short sharp shock」か「gentle persuasion」かによって、結果は大きく異なることも多いです。
球の歴史は長い。多くの地球科学者にとって、100万年は一つの単位になっており、地球は約46億年よりも前に誕生した。岩石の流動は重要です。この流動なしでは、地球の姿に計り知れない影響を与えるプレートテクトニクスの存在はないでしょう。地質学者にとってチベットは非常に興味深い地域です。巨大な高原が広がり、その総面積は 2.5x106km2で、平均標高は5,000mです。また、南にヒマラヤ、北にクンルン、西にカラコーラムとパミール、東にロンメンシャン、世界有数の山脈に囲まれている神秘的なところです。この高原と周囲に聳え立つ山脈は,現在も続くインドとアジアの二つの大陸の衝突によって形成された。
ベットの科学的な重要性はまず、大陸衝突プロセスを研究する上で、おそらく世界で一番優れた天然実験室であるということです。また、チベット高原の隆起と形成は東南アジアのモンスーン気候が定着するために必要条件のようです。チベット高原の形成と成長には岩石の流動は重要な役割を果たしていると言われています。標高は極めて高いのに、チベット高原の起伏は少なく、巨視的に見れば驚くほど平坦です。それは中部地殻には流動性の高い岩石の層は存在し、山ができるとその山の圧力によって、中部地殻の岩石は山の下から近傍の谷の下方へ流入するので、その結果、山は沈降し、谷は隆起するという説です。私の研究はこの不思議な「岩石流動」とチベットの形の形成モデルを定量的に検証することにしました。これから数年間チベットの調査を中心に研究を展開していく予定です。
の研究の中で,驚きの発見である「頭無しマイク」の話をすることは初めてですが、一見関係のない「岩石の流動」と「チベットの形」と「東南アジアのモンスーン成り立ち」のリンクを究明することは非常にやりがいのあり、これからも新しい発見をもたらしてくれそうな研究テーマと考えています。
tibet_folds_s.jpg
チベット山脈褶曲

English Version
 本教員のページ