環境学研究科
Graduate School of Environmental Studies

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  環境学と私
このコーナーでは、環境学研究科の教員がそれぞれの関心や出来事について広く語りかけます。

 アウトバックに探る30億年前の生命

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都市環境学専攻物質環境構造学講座
教授 杉谷 健一郎
(宇宙生物学、環境科学)

の研究テーマの一つは太古代(25億-38億年)の地球環境の進化と生物の進化です。西オーストラリアのピルバラというところが調査フィールドで、もうかれこれ10年以上も岩石砂漠をさまよい歩き、2度ほど遭難しかかりました。その甲斐あってか、6年前に約30億年前(本年度の調査でもっと古い可能性も出てきました)の地層中に微化石を見つけました。その微化石が一体どんな生物で生命進化においてどういう意味があるのか、地球環境の進化とどのように関連するのかが目下の関心事です。私が見つけた微化石は世界最古という訳ではありません。しかしその保存状態の良さ、サイズの大きさ、形態の多様性・複雑性、いずれをとっても一級品だと思います。最初は手探り状態で始め、紆余曲折を繰り返した太古代微化石の研究でしたが、つい最近正式に論文を発表(Precambrian Research誌)することができました。バクテリアから人間までこの地球上の多様な生物群には共通の祖先がいるとされていますが、いずれにしても生命は途切れることなく40億年前から現在まで連綿と続いているという「事実」は驚くべきことです。もしかしたら私の調べている微化石の中に人間とつながっているものがあるかもしれないとうことになります。
て、このエッセイを書くにあたって私の研究室の書棚に古ぼけた ブルーバックスがあることに改めて気づきました。それは米国の植物生理学者バリー・コモナーによる『なにが環境の危機を招いたか ーエコロジーによる分析と解答』で、高校生の頃、17、8年前(初版は1970年)に買ったものです。それ以降の私自身のいろんなドタバタにも関わらず、ずっとともに居たわけで、ちょっと感動してしまいました。内容の詳細は字数の都合上書けませんが、環境問題に関するあらゆる方面からの議論が30年前に既になされていることに驚くとともに、環境問題への取り組みにおける生態学的な視点の重要性を強調していることに改めて考えさせられました。私たちはついつい汚染物質の濃淡等、物理化学的指標の数値だけで環境の質を測りがちですが、そこここに生きている多様な生物を抜きに環境を語るべきではないと思います。また生態系における物質循環を実際の生き物を具体的にイメージしながら考えることが今後の環境教育の中でますます重要になるでしょうし、それがもう一つの私自身の研究テーマとして展開できればと考えています。
(すぎたに けんいちろう)

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球体:表面にゴルフボールのようなえくぼのある直径約60ミクロンの球状化石

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分裂:分裂中?長径約80ミクロンの奇妙な構造

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トリプル:同じサイズ(20ミクロン)、形のレンズ状構造が一列に並んだもの

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